ハードオフ新潟でキャンプ中のプロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの新潟は今日15日、クラブチームのJFAM EMANON(神奈川)と今季のオープン戦を行う。

今季から指揮を執る清水章夫監督(43)にとっては、監督として野球人生初の実戦になる。97年のドラフト1位で日本ハムに入団。その後オリックスでも活躍した左腕投手。引退後はサイクルショップに勤務していた。野球以外の世界にも接した経験を選手育成、チーム強化に生かす。

「サインの出し方から覚えなきゃならないです」。清水監督は照れ笑いを浮かべた。引退後、草野球はやっていたが、本格的な野球はオリックスを引退した10年以来。監督という立場は野球人生で初めて。ただ、気負いも気後れもない。「楽しくやってほしい。僕も楽しいのが好きだから」。9日からキャンプが始まり、今日15日はJFAM EMANONとの初のオープン戦。ひょうひょうとした雰囲気通り、自然体で臨む。

”楽しむ”とは、自主的に、意欲的に取り組むこと。「指導するというより、僕はこういう方法もあるよ、と提案する。それで選手が考えてほしい」。選手には気さくに声をかける。選手からも話を持ち掛けてくる。自分で考えることで、前向きになり、それをきっかけに意欲を持てば、向上心も高まる。その空気をキャンプで築きつつある。

昨年12月、球団から電話でオファーがあった。驚いた。「自分に野球の芽がまだあったのか」。引退後からサイクルショップに勤務し、当時は独立開業を考えていた。球団の話に「ワクワクした」。ただ、その後はお互い連絡を取らずに1カ月近く経過。実感も薄れていた。

急転したのは占いがきっかけだった。兵庫の占い師に開業の相談をしたところ、むしろ新潟の監督就任についてアドバイスされた。「あなたの手相はチャンスをつかめるけど、手放すこともある。それは自分でつかみに行っていないから」。少し気持ちが晴れた。すぐに球団に連絡を取った。自転車を通じて親しくなった知人たちには反対されると思っていたが、監督受諾を打ち明けると皆一様に喜んでくれた。

”つかみにいく”のは今回が初めてではない。大阪高で軟式野球に取り組んだ後、「自分がどれだけ通用するか試してみたい」と名門近大で硬式に転じた。関西大学リーグで最優秀投手に輝くなど素質が開花し、日本ハムのドラフト1位入団につながる。引退後に入った自転車業では、客にあったものを一から組み立てた。新しいことに踏み切る度胸は、もともと備わっていた。

一般の社会人として働いたことは貴重な経験だった。周囲と協力して店の収益アップを考え、客の求めることに対して懸命になった。1人の客とのつながりから次の顧客があらわれた。「いろいろな人と知り合ったことで自分は生活できている」。監督に就任し、今季のチームスローガンを「縁」に決めた。

13年間身を置いたプロ野球は「夢の時間だった」と言う。トップレベルのしのぎ合いは刺激があり、自身を高めた。同時に「あのときあれをやっていれば、と思うことがある」。目の前の選手に夢の空間を味わってもらうため、必要なことを提示するつもりでいる。「選手は楽しく野球をやりながら、自分に厳しい人間になってもらいたい」。求めるのは人間力のアップ。監督としてのシーズンを自身も楽しむ。【斎藤慎一郎】

◆清水章夫(しみず・あきお)1975年(昭50)9月9日生まれ、大阪府出身。大阪高では軟式野球部で投手。近大で硬式に転向し、4年のときに全日本大学選手権で優勝。97年のドラフト会議で日本ハムから1位指名を受け入団。00年5月の近鉄戦で初勝利。07年6月にオリックスに移籍し、10年に引退。19年1月にBC新潟の監督に就任。プロ通算成績は279試合に登板し17勝29敗2セーブ、防御率4・61。