【秋場所こぼれ話 中日~千秋楽】大の里が後援者と万歳をした支度部屋にセレブの香り
秋場所は、横綱大の里の6場所ぶり6度目の優勝で幕を閉じました。10月に定年を迎える立行司、39代木村庄之助の最後の本場所でもありました。
「秋場所こぼれ話」は、本場所中には書き切れなかった話をお届けします。
まずは中日から千秋楽までの後編です。
大相撲
「素首落とし」を書いた行司X
中日
秋場所から国技館内の売店で「大の里」と「豊昇龍」の漢字アイスが新発売となった。見た目のインパクトがあり、アイス自体も適度にシャリシャリしておいしい。
手がけていたのは漢字アイス専門店「KANJI ICE」で、元日本テレビアナウンサーの篠原光さんが共同代表を務めていることが分かった。アポを取って、電話で取材。
アイスになった相撲字は誰が書いたのか、この取材では分からなかった。協会グッズなどの相撲字を書くことが多い行司X氏に聞くと「書いたかもしれないけど、その先の使い道までは聞いてないのではっきりしませんね」と言う。
同じく話題になっている「決まり手フレークシール」についても、X氏に聞いた。これは誰が書いたのか。「あ、これはみっちゃん(木村光之助)です。もう何年も前で、電光掲示板で使われているものと同じです。みっちゃんから『素首落としだけうまく書けないから、書いてくれない?』と言われたので、素首落としだけ書きました」。決まり手フレークシールは15枚入っているが、素首落としだけX氏が書いた…。実名で紹介したいのだが、X氏は「裏方なので、表に出なくていいんです」とかたくなに言う。
このフレークシール、買ってはみたものの、どうやって使うのが正解なのだろうか。
NHKの大相撲中継で、おそらく初めてタッチペンを使った解説が行われた。正面解説は玉ノ井親方(元大関栃東)、向正面は舞の海さん。SNSでは、「ABEMAのパクリだ」と揶揄(やゆ)する意見もあれば、「わかりやすい」と好意的な声もあった。
支度部屋のモニターでは、NHK中継を流しているが、音はほとんど聞こえない。そのため、ある若い衆が画面を見ながら「今日はやけにスローVTRが多いですね。何でかな」とつぶやいていたので、事情を伝えた。
尊富士関が5勝目。取材対応をひとしきり終えると、「優勝候補がここにいます」と言って幕下の夢之富士さんに視線を送った。夢之富士さんは「やめてください。緊張しちゃうから」と言いつつも笑顔。まだ18歳。旭富士さんが関取に昇進するのは当然として、伊勢ケ濱部屋から次に上がるのは、この人かもしれない。
9日目は大型の台風が接近するとの予報。
K記者からのLINE
9日目
休み。毎場所、15日間のうち少なくとも1日は休みを取得しないといけない。
K新聞K記者から、LINEで短くメッセージが届いた。【報告】1320食堂到着。ルー多め。
9日目、国技館内の食堂のメニューはカレーライスだった。
自宅にて、ABEMAとNHKで9日目の取組を見た。
NHK中継内の企画「関取訪問」で時疾風関を取り上げていた。地元宮城県から送ってもらっている米を食べているという、心温まる話。こういうエピソードこそ、事前につかみたかった。
漢字アイスのプラスチックの型を再利用し、製氷の実験をした。できたものの、どう使えばいいか分からなくなり、グラスに入れてポカリスエットを飲んだ。終盤の大の里対安青錦を意識していたわけではない。
勘ではない、はず
10日目
若元春-藤青雲戦は、物言いがついたが、行司軍配通り。難しい判定だった。出番を終えて帰ってきた式守勘太夫さんに一声かけると「マグレっす」と謙遜していた。同時に行司部屋から出てきた式守伊之助さんは「いい勘してるなあ~」とニコニコ。
時疾風関に取組の話を聞いた後、前日の関取訪問についても少しだけ話した。30キロの米袋を2つ送ってもらっており、自分専用ではなく時津風部屋の皆さんで食べているとのこと。「本当においしい。(ほかの米との)違いは分かりますよ」と、地元愛を口にしていた。
伊之助さんが合わせた2番は、判定が難しい展開ではなく、熱海富士関と藤凌駕関が白星。結びの一番まで八角理事長(元横綱北勝海)を取材した後、館内を歩いていると、伊之助さんの帰路に遭遇。「勘がさえてた」とうれしそうに言って帰っていった。
磐受コーチ
11日目
39代木村庄之助さんの記事を出した。10月に定年を迎えるため、最後の本場所になる。力士が主役なので、裏方として目立ちたくない。こういう意向を持っていることは分かっている。それを前提に、今場所前半に行司部屋で話を聞いておいた。
錦富士関が支度部屋の風呂を上がると、磐受さんと取組について話をしていた。技術論を交わしていたようだった。
39歳の磐受さんは最高位が三段目55枚目で、父が元十両盤石。朝日山部屋に入門し、師匠の定年にともなって伊勢ケ濱部屋に転籍した。昔のことも、相撲のこともよく知っている。今場所は、聖富士さんの休場に伴い、熱海富士関の付け人についていた。
錦富士関は、磐受さんからアドバイスを受けているのか? 「相撲が大好きで、体のメカニズムにも詳しい。熱海富士もアドバイスを聞いて良くなった。番付とか関係なく、長くやってそういう視点を持つ人の意見は大事。体の動きとか詳しいんです」。番付は錦富士関の方がはるかに上だが、謙虚に兄弟子からの助言を受け止めていた。
幕内最後の3番は、八角理事長の話を聞きながらNHK中継を見た。藤ノ川関の取組の時、ボックス席で観戦する先代伊勢ノ海親方(元関脇藤ノ川)の森田武雄さんが、中継カメラにとらえられていた。80歳だが、親方だった時とほとんど変わらない。理事長取材の後、ボックス席に寄って話をうかがった。
記者の仕事
12日目
11日目でシルバーウィークが終わり。12日目は朝から晴れ間が広がった。
本日は国技館での仕事を終えた後、午後9時から築地の会社に戻って、生配信を行う。相撲ファンの皆さまからいただいた質問に配信で答える「夜の大相撲」という企画だ。そのための取材の最後の詰めも行った。
直前でいただいた質問に「羽出山関の大いちょうはなぜあんなに大きいのか」というものがあった。私も気になっていた。床山さんの控室に向かうと、ちょうど床塚さんが出てきた。関取ごとに、大いちょうを結う床山さんは決まっており、羽出山関の場合は同じ玉ノ井部屋の床塚さんが担当している。聞くと「ようやく話を聞きに来てくれましたか」と大歓迎してくれた。羽出山関の大いちょうが大きいことは相撲ファンの間でも話題になっており、やくみつるさんは漫画のネタにしたほど。にもかかわらず、床塚さんは1度も聞かれたことがなかったという。
本文残り72% (7483文字/10347文字)

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。
-
大相撲【秋場所こぼれ話 中日~千秋楽】大の里が後援者と万歳をした支度部屋にセレブの香り
【秋場所こぼれ話 中日~千秋楽】大の里が後援者と万歳をした支度部屋にセレブの香り 秋場所は、横綱大の里の6場所ぶり6度目…
佐々木一郎
-
大相撲【39代木村庄之助 定年会見全文】今日を最後に装束を着ることはないと思います
【39代木村庄之助 定年会見全文】今日を最後に装束を着ることはないと思います 立行司、39代木村庄之助(64=九重)が1…
佐々木一郎
-
大相撲【秋場所こぼれ話 初日~7日目】大の里と藤ノ川のルーティンの狙いとは?
【秋場所こぼれ話 初日~7日目】大の里と藤ノ川のルーティンの狙いとは? 秋場所は、横綱大の里の6場所ぶり6度目の優勝で幕…
佐々木一郎
-
大相撲【アーカイブ動画配信中】佐々木一郎記者「夜の大相撲」秋場所編もお楽しみください
【アーカイブ動画配信中】佐々木一郎記者「夜の大相撲」秋場所編もお楽しみください 日刊スポーツ・プレミアムが相撲ファンの皆…
佐々木一郎
-
大相撲【矢後 引退会見全文】希望を持って手術を受けたが元通りにはならなかった
【矢後 引退会見全文】希望を持って手術を受けたが元通りにはならなかった 元幕内で西三段目22枚目、矢後(32=押尾川)が…
佐々木一郎
-
大相撲大相撲の番付をAIに作らせたらどうなるのでしょう 精度は何割? 難しかったのは?
大相撲の番付をAIに作らせたらどうなるのでしょう 精度は何割? 難しかったのは? 大相撲の番付をAIに作らせたらどうなる…
佐々木一郎
-
大相撲最古参関取の佐田の海、11カ月だけ過ごした「熊本」を出身地としている理由とは?
最古参関取の佐田の海、11カ月だけ過ごした「熊本」を出身地としている理由とは? 最古参の関取、39歳の佐田の海(境川)が…
佐々木一郎
-
大相撲【祝・新三役 教えて!藤ノ川関】その勇気の原動力はどこにあるんですか?
【祝・新三役 教えて!藤ノ川関】その勇気の原動力はどこにあるんですか? 幕内最年少21歳の藤ノ川関(伊勢ノ海)に、好角家…
佐々木一郎
-
大相撲【夏巡業の思い出】大栄翔の謎のマイルール、真夜中にテレビが落下して飛び起きた輝
【夏巡業の思い出】大栄翔の謎のマイルール、真夜中にテレビが落下して飛び起きた輝 2026年の夏巡業は、8月30日が最終日…
佐々木一郎
-
大相撲【千代の富士を忘れない 後編】初優勝、一代年寄を辞退…引退会見「体力の限界」
【千代の富士を忘れない 後編】初優勝、一代年寄を辞退…引退会見「体力の限界」 横綱千代の富士が亡くなってから10年になり…
佐々木一郎
-
大相撲【千代の富士を忘れない 前編】がんに屈した大横綱、日刊スポーツはどう報じたか
【千代の富士を忘れない 前編】がんに屈した大横綱、日刊スポーツはどう報じたか 横綱千代の富士が亡くなってから10年になり…
佐々木一郎
-
大相撲【名古屋場所こぼれ話 9日目~千秋楽】あの足を見たら優勝なんて想像できなかった
【名古屋場所こぼれ話 9日目~千秋楽】あの足を見たら優勝なんて想像できなかった 名古屋場所は、関脇安青錦の3度目の優勝で…
佐々木一郎
-
大相撲【名古屋場所こぼれ話 初日~中日】獅司は入門時、ポケトークで意思疎通していた
【名古屋場所こぼれ話 初日~中日】獅司は入門時、ポケトークで意思疎通していた 名古屋場所は、関脇安青錦の3度目の優勝で幕…
佐々木一郎
-
大相撲【大翔丸 引退会見全文】両親から伝えられた「でも、その小さい体で、ようやったよ」
【大翔丸 引退会見全文】両親から伝えられた「でも、その小さい体で、ようやったよ」 元幕内の大翔丸(35=追手風)が名古屋…
佐々木一郎
-
大相撲【アーカイブ動画配信中】佐々木一郎記者「夜の大相撲」お楽しみください
【アーカイブ動画配信中】佐々木一郎記者「夜の大相撲」お楽しみください 【お待たせいたしました! アーカイブ配信開始いたし…
佐々木一郎
-
大相撲朝乃山の富山への愛が詰まった反物 ブリが波の上に跳びはね、立山連峰が見守る
朝乃山の富山への愛が詰まった反物 ブリが波の上に跳びはね、立山連峰が見守る 大相撲には、幕内力士や相撲部屋が反物を作り、…
佐々木一郎
-
大相撲背筋が凍るデザインはどうして生まれた? 王鵬の今年の反物は「ホラー柄」
背筋が凍るデザインはどうして生まれた? 王鵬の今年の反物は「ホラー柄」 大相撲には、幕内力士や相撲部屋が反物を作り、お中…
佐々木一郎
-
大相撲【琴栄峰インタビュー】一門を超えて伝授された四股、飛躍のきっかけと近づいた優勝
【琴栄峰インタビュー】一門を超えて伝授された四股、飛躍のきっかけと近づいた優勝 22歳の新鋭、琴栄峰(佐渡ケ嶽)が夏場所…
佐々木一郎