IBF世界スーパーバンタム級5位の小国以載(ゆきのり、28=角海老宝石)が世界初挑戦で王座をつかんだ。22勝(22KO)1無効試合の王者ジョナタン・グスマン(27=ドミニカ共和国)に3-0の判定勝ち。漫画「はじめの一歩」を読み、ボクシングを始めた28歳が大金星で悲願をかなえた。次戦は指名挑戦者で同級3位岩佐亮佑(27=セレス)と、春をメドに初防衛戦を戦う見込みだ。

 満身創痍(そうい)でも小国はめげなかった。3回、左ボディーのカウンターがグスマンの体にめり込む。ダウンで会場が総立ちになった。だが、小国も左手親指が動かない。4、5回には右拳も痛めた。左目上は真っ赤、耳なりもする。それでも3-0の判定で、KO率100%の絶対王者を倒し「負けたら引退って決めていた。『まだ行ける』って言い聞かせた」。ベルトを巻くと「めっちゃ重いです」と笑った。

 この世界に引き込まれたのは5冊の漫画だった。中学3年のある日。新刊発売を待つのが嫌いな小国は「これなら読みつぶせる」と50~60巻並んでいた「はじめの一歩」を手に取った。食い入るように読むと、祖母に次の巻をおねだり。主人公一歩が、伊達英二に初黒星を喫し「俺しかおらん」と情熱が湧いた。グローブを初めて持つと、練習で食らったボディーにもん絶。「伊達英二、軽くないな」。憧れだけが力だった。

 プロ転向後は全勝街道を歩んだが13年3月、和気にプロ初黒星を喫し引退を決意。だが周りの勧めで関西を離れ、角海老ジムの門をたたいた。「28歳で東京で1人。寂しいよ」。自問自答の日々だった。

 ずっと抱く持論がある。「ボクシングを続けているのはアホだからです。頭いいヤツは区切りをつける」。世界王者になっても、その感情は変わらなかった。「この顔見てよ。アホやと思うでしょ。でも、幸せです」。小国は泣かなかった。だが、周りが泣く光景がたまらなかった。

 スポットライトの当たるリングには、ボクシング人生最初の指導者西川良一さん(享年59)の遺影を上げた。13年4月11日に急逝。亡くなる3日前まで「世界はそれじゃないと取れん!」とミットをはめてくれた。地元関西でつかんだベルト。はじめの一歩に憧れた少年は、13年目で目標へ行き着いた。【松本航】

 ◆小国以載(おぐに・ゆきのり)1988年(昭63)5月19日、兵庫・赤穂市生まれ。中学までバスケットボールに取り組み、漫画「はじめの一歩」の影響で中3からボクシングに。神戸第一高3年時に高校総体バンタム級3位。神戸市のVADYジムで09年11月にプロデビューし、13年3月の東洋太平洋王座防衛失敗で引退を表明。同年5月に角海老宝石へ移籍し、現役続行。173センチの右ボクサーファイター。

 ◆ジム4人目 小国は角海老宝石ジムからは、のべ16人目の世界挑戦で4人目の世界王者誕生となった。過去3人は84年WBCフライ級小林光二、タイ出身で04年WBCミニマム級イーグル京和(05年にも返り咲き)、08年WBAライト級小堀佑介。日本のジム世界王者育成人数では、協栄12人、帝拳11人、ヨネクラ5人に次ぎ、三迫、大橋、ワタナベなどを抜いて単独4位となった。