女性ボーカルグループ「SPEED」の元メンバー、自民党の今井絵理子参院議員(37)の長男、今井礼夢(らいむ、16)がプロレスラーとしてデビューする。7日に所属するHEAT-UP(ヒートアップ)の新百合ケ丘大会(神奈川・新百合トウェンティワンホール)でデビューのマットに立つ。生まれつき耳の聞こえない先天性難聴という障がいを抱えながら、10月に団体のプロテストに合格。世界での活躍を夢見て、その1歩を踏み出す。 【取材・構成=松熊洋介】

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今年3月、礼夢は高校に進学せず「プロレスラーになる」と決めた。母も「いいと思う。応援するよ」と力強い言葉で後押ししてくれたという。166センチ、67キロと小柄だが、中学では野球部にも所属。やりたいことに真っすぐ向かう熱いハートも含め、10代でデビューしSPEEDで国民的なスターになり夢をかなえた母と同じように、挑戦することを選んだ。

母がプロレス好きだった。影響され、小学生で興味を持ち、中学に入って以降約3年、ジムに通った。「最初は怖かったが、だんだんかっこいいなと」。その後、親子でWWEの試合を観戦し、リングへの思いが強くなった。 生まれつき耳が聞こえない。コミュニケーションはほとんどが手話となる。幼いころから二人三脚でたくましく歩み、応援もしてくれた母は、11月の参院本会議で初めて手話を交えながら質問するなど、障がいを抱える人たちへの支援活動も続けている。シングルマザーとなってからも、互いに支え合って生きてきた。政治活動も含め、多忙を極める。理解し合う2人。ハンディを抱える礼夢もたくましく自立を目指した。 母が仕事の合間を縫ってオンラインなどで、意思の疎通を手話でサポートしてくれることもあるが、マットの上ではプロとして、1人立ちしなければならない。普段の練習からすべて1人でやってきた。心配し「通訳をつけたい」との母の提案を退け、筆談もやめ、とにかく体で覚えた。

当初、プロになるという夢を伝えられたヒートアップ代表で、自身も看板レスラーとして活動し、デビュー戦で対戦する田村和宏(40)は「最初は高校に行った方がいいと思った。ついてこられるかなと…」。受け入れはしたが、懐疑的だった。礼夢は、コロナ禍でも地道にハードなメニューをこなして成長していった。プロテストでは、2度目の挑戦で「スクワット500回」「腕立て、腹筋、背筋各50回3セット」「縄跳び5分間で失敗3回まで」の課題をクリアした。 礼夢は「もともとハートは強い。やめたいと思ったことは1度もない」と胸を張る。

「いろんな人に見に来てほしい。頑張れば夢はかなうことを伝えたい。目標はWWEの戸沢選手と、新日本の鷹木選手。いずれはアメリカで活躍したい」と目標を掲げた。 母には感謝している。16歳の誕生日に、インスタグラムに「世界で一番強くて優しいプロレスラーになる日を、母は楽しみにしています」と書いてくれた。「勝ったら『応援してくれてありがとう』と伝えたい」。16歳の時、母はすでに大スターだった。まずたくましい姿をみせ、感謝を伝え、夢への第1歩を記す。

◆今井礼夢(いまい・らいむ)2004年(平16)10月18日、東京都生まれ。都立立川ろう学校出身。趣味はプロレスのTVゲーム。166センチ、67キロ。

◆プロレスリング・ヒートアップ 13年1月に代表兼レスラーの田村和宏がプロレスを通して、障がい者支援と青少年育成の目的で設立。今年2月までは月数回の興行を実施。コロナ禍で、5月末からは定期的に道場での試合を無料配信している。所属選手は7人。キッズクラスや学校での指導のほか、清掃や野菜作りの手伝いなども行う。道場の所在地は神奈川県川崎市多摩区菅北浦1の2の3。

◆10代でのプロレスデビュー ヒートアップの井土は今井と同じ16歳でプロデビューした。男子では中嶋勝彦(ノア)が04年に15歳でデビューしている。新日本のオカダ・カズチカは16歳(当時は闘龍門)、アントニオ猪木、藤波辰爾は17歳でリングに立った。女子選手の中には、中学生でデビューする選手もいる。