ボクシングは久々の世界戦ラッシュになった。まずは27日に米ニューヨークの殿堂マディソン・スクエア・ガーデンで、IBF世界スーパーフェザー級3位尾川堅一(33=帝拳)が世界挑戦。今度こその2度目で口火を切る。

12月14日には東京・両国国技館で、世界バンタム級2冠王者井上尚弥(28=大橋)が2年ぶりの国内登場となる。来年の4団体統一へ向けて、WBA6度目、IBF4度目の防衛戦。セミではWBO世界ミニマム級1位谷口将隆(27=ワタナベ)が、約3年ぶりの世界挑戦で悲願を目指す。

年末の29日はさいたまスーパーアリーナで、WBA世界ミドル級スーパー王者村田諒太(35=帝拳)が2年ぶりの世界戦となる。IBF世界同級王者ゲンナジー・ゴロフキン(39=カザフスタン)との統一戦と、念願のビッグマッチが実現する。セミではWBO世界フライ級王者中谷潤人(23=M.T)がV2戦で凱旋(がいせん)する。

大みそかはいつもの大トリが予想される。WBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(32=志成)のV4戦。IBF世界スーパーフライ級王者ヘルウィン・アンカハス(29=フィリピン)と統一戦が見込まれている。3階級制覇王者と4月にV9の強豪の対決だ。

カードを列挙しただけで楽しみになる。注目の王者たちの一戦が待ち遠しい。ただし、裏舞台では、ある異変が起きた。井上や村田がテレビの地上波では見られないのだ。井上はひかりTVとABEMA、村田はAmazonプライムビデオで有料生配信となった。

一番の理由はファイトマネーを含む興行費用にある。村田はゴロフキンとのビッグマッチで20億円と言われる。主な収入は入場料と放送権料となるが、テレビ局では賄いきれない状況となっている。

昭和では民放全局が生中継するほど熱狂の時代もあったが、今や遠い昔。ボクシングは負ければ終わりとも言え、テレビ局の収入となる広告は継続が保証されず、割が合わないとつきにくい。元々減益の時代で難しさは増し、すでに完全撤退のテレビ局もある。

動画、映像サービスも多様化し、テレビを見ない、テレビを持たない人も増えているという。新たな配信方法は時代に即したものだが、ちょっと心配だ。テレビを見て、あこがれてボクシングを始めた世界王者は数多い。それしかなかったし、タダで見られた。PPVとなると、興味のある人に限られることになる。

スポーツの人気を支えるのは成績が第一だが、何よりも露出だと思う。多様化も大きな要因だが、野球にしてもサッカーにしても、以前のような人気はもうない。それも地上波が減ったことが要因の1つだと思う。

同じ格闘技でも大相撲はまあまあ人気を維持している。不祥事続きでファンが離れた時期もあったが、その不祥事も他のスポーツに比べると特大の扱い。何より誰でも知っているからだろう。それはNHKが生中継しているからにほかならない。日本全国にファンがいる。今や海外まで。

コロナ禍以前から競技人口は減少傾向にあった。コロナ禍でその傾向は一層強まっている。東京五輪でアマ希望者は若干増えたという話もあるそうだが、プロボクサーは明らかに減っている。

長年のボクシングファンにはPPVでも慣れっこになっている。海外のビッグマッチに比べれば格安とも言えるが、世間一般との距離は広がっている気がする。将来の世界王者への大きなきっかけが1つ減ることになる。業界にとって背に腹は代えられないが、逆に心配事がよぎる世界戦ラッシュとなった。【河合香】