プロボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(29=大橋)が7日、さいたまスーパーアリーナでWBC世界同級王者ノニト・ドネア(39=フィリピン)と3本のベルトを懸けてリマッチに臨む。

日本人初の3団体統一を狙う井上は19年11月、階級最強を決めるワールド・ボクシング・スーパーシリーズのバンタム級決勝でドネアと初対決。2回にドネアの左フックで右眼窩(がんか)底などを骨折しながらも11回に左ボディーでダウンを奪取。国内外で年間最高試合に選出された激闘翌日に横浜市内で臨んだ記者会見で、井上がドネアとの12回を振り返っている。その内容を再掲載する。

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▽1回

井上「ドネアはイメージし、トレーニングしたままだった。驚きもなく気持ちに余裕持ってスタートした。左フックの打ち合いも角度の間違いはなかった。自分の練習してきたイメージ通りの距離感を持てていた」

▽2回

井上「先に左フックでぐらつかせ、早い段階で試合が終わると感じた。その後の(約50秒後の)左フックですべて変わった。1回が良すぎたため、油断はしていないけれど、気持ちの余裕が出たのかな。それが少しでた。左フックは正直、ボディーに来ると思ったパンチが顔面に。それはドネアのうまさかな」

▽3回

井上「(右目上)カットは何も問題なかったが、眼球のダメージを負って視界がぼやけた。ドネアが2人いるような状態が最終ラウンドまで続いた。ドネアが2重に見えるため、左フックを使ったポイントアウトに切り替えるしかなかった」

▽4回

井上「ドネアにどう伝わったかはわからないけれど(右目の重傷は)隠し切っていたように見える。自分の目の状況が相手に伝わっていたら倒しにきていると思う。それがなかったから自分の冷静さとゲームプランがうまくマッチしたのだと思う」

▽5回

井上「右ストレートがうまく入ったが、もう右ストレートを当てるにはあの手段しかなかった。ドネアが入ってくるところに右を合わせる。右目がぼやけているので、自分が踏み込んでの右ストレートは打てる状況ではなかった。それを瞬時に距離感を図りながら打てたのは自分の適応力を感じた」

▽6回

井上「2回からポイントアウトすると作戦変更してから6回まではポイントを取りにいきました。右目がぼやけて的中率も落ち、右ストレートにはドネアの左フックのカウンターパンチがある。それを警戒し、あまり出すことができなかった」

▽7回

井上「7、8、9回は少し捨てました。自分の回復と前半のポイントの貯金があるかなと陣営と話して感じていたので。まだ目がうまくみえる状態ではなかったこともある」

▽8回 

井上「出血が多くなり、血が目に入って逆に視界がなくなって良くなった。右目が見えないので、ぼやけてみえることがなくなった。グローブで隠す必要がなくなってラッキーだったと考えた。いいように流れてきたと」

▽9回

井上「右ストレートを受けて正直、効きました。持ちこたえられたのは息子の存在が大きい。バチンと打たれた時に息子の顔が目に浮かびましたから。そこで持ちこたえられた。ボクシング経験で家族の顔が浮かんだのは初めて。家族の存在がボクシングに与える影響はでかいと思った」

▽10回

井上「7~9回を少し捨てたことで、残り3~4回はしっかり取ろうという作戦でした。10、11、12回は確実に取ろうと」

▽11回

井上「(ダウンを奪った)右アッパーからの左ボディーは完全に狙っていました。ただポイント差が思ったより広がっていなかったので競っていたのだなと試合後に思いました。(レフェリーがカウントを数え始めるのが遅く)あれは幻の10カウントだなと(笑い)。ここまで来るとお互いの力を出し切り(ドネアに)反応して左フックを打ってくる怖さがなかった。中盤はボディーを打たれることを警戒していたけれど、あそこで打てましたね」

▽12回

井上「11回にダウンを取れて最終ラウンドは気持ち楽に見せ場をつくることができた。(最終ラウンド始まる前に鼓舞したのは)ファンのアシストがほしくてああいう動きをした。プロになってから、あのように競った試合は初めてで。あらためてァンの後押しの大切さを感じました」

▽試合終了後

井上「ドネアと抱き合ったのは、本当にボクシングの良さかなと思う。ドネアを尊敬してボクシングをやってきたこともある。試合が終われば関係なくたたえあう。(タフネスぶりをみせ)自分のことは自分でよく分かっているし、自分ではあんなものかなと思っていた。分かってもらえるというのはどうかと思うけれど証明できたのかな。

▽総括

井上「(名勝負と言われ)それは相手がドネアだからこそ。ドネアでなければ感動的なドラマにならなかった。ドネアに感謝しています。ドネアから気持ちの面をすごく受けとりました。言葉でなく拳で語ることの方が多いかな。ドネアとの再戦? それは、もういいんじゃないですかね」