元年俸120円Jリーガーで、20年末から格闘家へ転身した安彦考真(44)がスイスのパトリック・カバシ(28)と67キロ(3分×3回)で戦い、2回途中、KO勝ちした。安彦の飛び膝蹴りがカバシの顎にヒットし、もん絶。そのまま試合続行不可能でセコンドからタオルが投げ込まれた。

ゴング直後は、相手の出方をうかがっていた安彦だったが、拳がぶつかり合った瞬間に一気に戦闘モードに。「相手が嫌がる」という得意の前蹴りでリズムを作り、優位に試合を進めた。2回も最初からトップスピードで仕掛けていき、大会初の「プロ」の試合でしっかりと結果を残した。

カバシとは10月に相手の母国スイス・チューリヒで開催された格闘技大会「ノックアウト・ファイトナイト8」でも対戦し、互いにダウンを奪い合った末に引き分け。相手が来日して実現したリターンマッチで「タフな選手ですが、今回でちゃんと決着をつけたい」と意気込んでいた通り、しっかりと勝利を収めた。

元Jリーガーらしく、この試合は「僕の中でのW杯」と位置づけていた。10月は他の国内大会からのオファーもあったが、「あえて過酷な方を選ぶ。それが挑戦者」と迷わずスイスへと飛んだ。「スイスにはFIFAの本部もある」とし「熱いファイトで、見る人の心が動かされるものをみせたい」と語っていた。

サッカーW杯での日本の戦いから多くの勇気ももらった。出場選手にも知り合いは多く、MF三笘薫にはスイスでの試合が決まった際に連絡を入れた。相手と相まみえる際のマインドについて聞き、自分の得意な形を出すこと、苦手な部分なるべく見せないことの重要性を教えられた。「いけると思ったら勝負をする。『練習中のイメージを忘れないことが大事で、僕はウオーミングアップではそのことを意識しています』と言われて、これは自分にとって大事なことだなと思いました」。

これでデビューから格闘家としては8戦7勝1分。「無敗で終えることができてよかった」とホッとした表情を見せた。目標は大みそかの格闘技イベント「RIZIN」出場。この日は対戦を希望するYA-MANが会場に訪れていたこともあり「まだ全然かなわないかもしれないが、拳を交えることがあれば精いっぱい戦いたいと思う」と本人の前で挑戦をアピールした。「W杯のスペイン戦のように、1ミリの可能性を全員が持っている。それを忘れないことが重要だと思います」。最後はお決まりの「バモー」ではなく「ブラボー」と叫び、会場を1つにした。夢を諦めることなく、安彦は挑戦を続けていく。【松尾幸之介】