元年俸120円Jリーガーで20年末から格闘家に転向した安彦考真(45=Executive Fight 武士道)が26日に東京・有明アリーナで行われる格闘技イベント「RISE ELDORADO 2023」で第4代DEEP☆KICK63キロ以下級王者のKENTA(30=HAYATO GYM、RISEライト級7位)と対戦する。

デビューからプロアマ含め8戦負けなしの中で「間違いなくこれまで戦った中で一番強い」と語る相手との一戦。運命の試合を前に取材に応じ、“挑戦モンスター”として生きる思いを語った。

試合は68キロ契約3分3R(延長1R)で戦う。25日に行われた計量は67・85キロで無事にパスした。「秒殺でやられて終わるか、3ラウンド良い勝負をして勝つか、どちらかだと思います」と語り「いつも『自分の人生のジャイアントキリングを見せる』と言っているので、まさにふさわしい試合になると思っています」と奮い立たせた。

対戦カードのオファーを受けた際は「いいじゃんと思う高揚感と、めちゃくちゃ恐怖を感じている自分の両方がいた」と3日間悩んだ。「このあとにもつながる試合になると思いましたし、プレッシャーもある。怖いか怖くないかだと、めちゃくちゃ怖い。いつも僕は最悪を想定して最善を尽くすタイプ。今回はダウンしてマットに倒れている自分を想像して、(練習しながら)それをかき消すのが大変でした。こうなったらやるしかない。腹をくくっているという意味では、もうずっとですから」。

常に高い壁に挑み、乗り越えてきた自負はある。プロ格闘家として昨年2月にRISEでデビューした際は、元西武投手の相内誠(28)を相手にKO勝ち。同12月には引き分けからの再戦となったスイス人のパトリック・カバシ(28)も倒した。共に一回り以上年下の相手。周囲には「絶対無理」と言われ、戦前の下馬評も高くなかったが、結果で返した経験がある。

安彦は「今回もアマチュアとしてデビューした時や、相内戦前の感覚に近い」といい「ここまで試合では無敗ですけど、練習では何度も負けているし、この前も出稽古でボコボコにされました。だから、あんまり勝っているという認識が自分にはないんですよね」と語る。

大みそかのRIZIN出場を目指すと掲げてJリーガーを引退したあの日から約2年。今年はこれまでの自分を超えるという意味を込めた「超戦」がスローガンだ。「42歳でJリーガーになるのと、今回の試合に勝つ確立、どちらが低いかと言われたら、もしかしたらJリーガーになることの方かもしれない。『無理なんじゃないか』『できないんじゃないか』を乗り越えるのが自分の表現ですし、僕は1位で走り続けることはできない人。劣勢な方が生きている感じがあって、その方がいい」と力を込めた。

今大会には不思議な運命も感じている。元K-1王者小比類巻貴之氏の道場で共にトレーニングに励む京介(25=TOP DIAMOND)のほか、今回がK-1とRISEの対抗戦となったことで、自身のアマチュアデビュー戦などでセコンドを務めていたK-1の愛鷹亮(33=力道場静岡)も同大会に出場する。自身を支え続けてくれた仲間とプロの舞台で集合、共演することになった。

安彦は「まさかプロとして同じ大会に出ることになるとは思ってなかった」と驚き「まさにチーム一丸となって戦うということ。全員で勝ちたい」と意気込んだ。

KENTAについては「全てがハイレベルで、スタミナもある」と警戒する。フィジカル面やボクシング技術の向上にさらに力を注いできたと明かし「今ある能力を生かして、手数を増やす、リズムを上げる。45歳ですけど、強みはスタミナとフィジカルなので(笑い)。いまだにそう言えるのはおじさんに勇気を与えるんじゃないかなと思います。『やっちゃえおっさん』ですね」。

自身の活動を通じて「見る者に勇気を与えたい」と常日頃から口にしてきた。「見た人の自分の中の第1歩を踏み出すきっかけになったらいいなと思っています。人生、輝いているのは旅の途中なので。怖くて苦しくてきついですけど、人間、まだ気づいていない本能というものはあると思っていますし、そのためにやったことのない努力をする。今回のリングで全てを出し切ります」。

かつてブラジルにサッカー留学した経験から、いつも試合後は観客と「Vamos!」の合唱で締めている。9度目の声を響かせるために、命をかけて挑戦者の生き様をみせる。【松尾幸之介】

 

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。21年4月にアマチュア格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。プロとしては22年2月16日にRISEでデビューを果たした。175センチ、74キロ。