横綱鶴竜(32=井筒)が4度目の優勝を飾った。後続と2差で迎えた豪栄道と結びの一番。土俵際ではたき込み、13勝1敗とした。16年九州場所の3度目V以降、頸椎(けいつい)、左肩、両足首、腰など度重なる故障に見舞われたが、今場所「チャレンジ」をテーマに、8場所ぶりに賜杯をつかんだ。大一番で、引く悪い癖が出て「相撲は最悪」と自嘲気味に笑ったが、優勝後の花道で感極まって涙を浮かべた。

 鶴竜が下がった。大阪出身のご当地力士、豪栄道の圧力に耐えかね、引いて、はたいた。悪い癖の負けパターン。しかし、残った。俵ぎりぎり右足だけで伸び上がるように立つと、豪栄道が前に落ちた。「相撲は最悪でした」と言った。「何が何でもという気持ちでした」と言った。取組前に「豪栄道コール」が起こった館内は静かになった。優勝決定の相撲には不細工だった。それでも、泥臭い横綱の姿には、苦難を乗り越えた輝きがあった。

 悪夢は前回優勝の16年九州場所後に始まった。17年初場所で頸椎(けいつい)と左肩を痛め、左右の足首、腰…。「『よっしゃ』と思ったら、違うケガをする。本当に気持ちが折れそうだった」。4横綱だった昨年、全6場所で自分だけ優勝がなかった。「悔しさを、今年にぶつける」と臨んだ初場所も11日目に左足首を痛め、千秋楽に右手薬指を脱臼。2月1日に左足首の遊離軟骨除去手術を受けた。今場所は初日の3日前、悩んだ末に出場を決めた。「チャレンジだと思った」。自分に賭けた。

 多くの人の励ましの中で、心に残った言葉がある。「神様は乗り越えられない試練を与えない」-。5分間しか踏めなかった四股を、時間をかけて30分間踏めるようにした。場所中の朝稽古は午前8時半に土俵に下りて、四股、すり足、てっぽうを30分。睡眠は昼寝と合わせて8時間強。場所入りは決まって午後3時15分。「すごく大事」というルーティンを崩さず、準備を整えた。

 「家族、それと応援してくれた人たちのおかげです」。折れかけた心を支えてくれた周囲に感謝したい。その人たちに、復活優勝を見せたい。その一心で土俵に立った。悪い癖で、何度も引いたが、13勝した。日頃から「まだ成長できると思う」と口にする32歳は、5度目の優勝で会心の15日間を見せるつもりだ。【加藤裕一】

 ◆鶴竜力三郎(かくりゅう・りきさぶろう)本名・マンガラジャラブ・アナンダ。1985年8月10日、ウランバートル市生まれ。モンゴルではバスケットボール、レスリングなどを経験。01年9月に来日し、同年九州場所で初土俵。06年九州場所で新入幕、12年春場所後に大関、14年春場所後に横綱昇進。しこ名は先代井筒親方(元関脇鶴ケ嶺)の「鶴」と「しっかり立つ」の響きから「竜」。「力三郎」は師匠の弟の元関脇寺尾(現錣山親方)の現役時代から取った。得意は右四つ、寄り。186センチ、155キロ。家族は妻と1男1女。血液型A。