8場所連続休場から復活を目指す横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、流血しながらも無傷の4連勝を飾った。西前頭筆頭の207キロ魁聖を、得意の左四つで寄り切った。魁聖戦は12戦全勝となった合口の良さに後押しされ、幕内で2番目に重い相手を撃破。支度部屋では今場所初めて、一瞬ながら表情を緩めた。鶴竜、白鵬を含め3横綱が4連勝。89年春場所で北勝海、千代の富士、大乃国が11連勝して以来、29年ぶりに3横綱が初日から4連勝とした。

我慢、我慢の土俵人生を象徴するように、稀勢の里はじっくりと勝機を探っていた。立ち合いですぐに左をねじ込み、胸を合わせて前に出た。だが相手は207キロの魁聖。簡単には寄り切れない。相手の攻めをしのぎつつ力を蓄え、右上手を引くと、一気に寄り切った。相手の胸にうずめていた顔を上げると、鼻と口から出血していた。58秒8に及んだ大相撲を制し、紅潮した顔と体、流血で体中が真っ赤になっていた。

多くの親方衆や解説者らが、序盤5日間でどれだけ白星を拾えるかをカギとして挙げていた。ふたを開けてみれば4連勝。「1つ1つ、やっていきたいと思います」などと、初日から変わらず少ない口数の中に、翌日以降の決意を込めた。ただ、これまでと違ったのは報道陣への対応を終えた後だった。付け人らと話すと一瞬、笑顔を見せた。「1日一番、しっかり集中して、明日やっていきたい」と気の緩みはない。だが自然に安堵(あんど)の思いが表情に出た。

約2年ぶりの対戦となった魁聖には、これで12戦全勝となった。今場所、対戦が予想される力士で、初顔合わせを除けば唯一、無敗の相手。負ければ周囲から衰えを指摘されやすいだけに、かえって重圧のかかる状況だった。とはいえ長く幕内最重量の座に就く、今場所227キロの関脇逸ノ城には2連敗中。稀勢の里が200キロ超に勝つのは、昨年1月21日の初場所14日目に逸ノ城を破って以来、599日ぶりだった。その逸ノ城戦は、初優勝を決めた思い出の一番でもあった。

何度もはね返された末に、初めて賜杯の重みを感じた日から今日5日目で600日。その時に匹敵する重い相手を破り、他2人の横綱と賜杯を争う舞台に立ちたい思いが湧いても不思議ではない。【高田文太】