新型コロナウイルスの感染拡大を防止すべく、史上初の無観客開催となった大相撲春場所初日の8日、会場のエディオンアリーナ大阪の正面掲示板には「無観客で開催」と表示されていた。例年なら、力士の入り待ちでにぎわう会場の門は閉じ、会場入りは裏門に限定。人出も少なかった。

会場の様子を見に来たという相撲ファンの女性は「チケットをやっと、キャンセル待ちで取れたのに…」と残念がりつつも「(無観客は)しかたない」。毎年、春場所の開催時期は「(近くの)駅でお相撲さんを見かけるのに、1人も見てない。(大相撲は)やってんの? と思って会場を見に来ました。人が全然いない。大阪の3月といえば相撲なんで」と話した。

今回はテレビ中継を見て、大好きな横綱鶴竜を応援するという。

無念の思いを抱えるのは、観客だけではなく、周辺の飲食店も同じ。会場近くに昨年オープンしたそばと日本酒が売りの「hanako first」では、大相撲観戦の客を期待していた。混雑を見込み、アルバイトを3人体制で準備していたが、1人に減らしたという。

同店で働く北堂吉信さんは「(無観客でも)人通りがあると思っていましたが全然でした。見込みが外れた。相当なダメージですね」。2月までは順調に売り上げを伸ばしていたといい、3月も相撲協会の関係者の来店などを期待していたが、感染防止のため出歩く人を見かけない。

「3月もいけると思っていたんですけど。(コロナウイルスの影響で)先が見えないです。(オープンしたばかりで)不安ですね」と悩みを口にした。

会場最寄りのカフェ「Cafe space Buzz」でも、苦悩を抱える。会場は南海電鉄・難波駅の近くで、駅をはさんで反対側には吉本興業の本拠地・なんばグランド花月がある。おりしも、花月での興行も休止が続いており、さらには、外国人をはじめ観光客の数も激減。人通りの数そのものが減っている。

同カフェのオーナーは昨年の同時期に比べ売り上げが6割減になったと嘆く。「大打撃です。うちが一番(会場から)近いので影響も大きいです」。昨年までは、春場所の時期になると親方衆や取組前の関取衆らが訪れていた。店を出るときはあいさつもしてくれていたという。「教育を受けられているのか、礼儀正しい方が多い」と感謝しつつも、今年はそんな姿も見かけられなくなった。

場所中は朝から、幕内の取組が行われる午後4時前後までほぼ満席状態だった。「イベントの自粛で4月も(同会場の)キャンセルが相次いでいると聞いています。うちとしてはまだまだ厳しい。うちだけの悩みではないと思いますけど、長引くほどダメージを受ける。いつまで続くのか」と先行きの不透明さに心配がつきないようだった。【南谷竜則】