高安の強烈な、かち上げからの突き押しにも翠富士の下半身は盤石でした。余裕をもって右からタイミングよく突き落としました。高安は当たっているようで当たっていない。的が小さいから当たりにくかったのでしょうが、それでも1発で持って行かれない強さが翠富士はありました。

翠富士の今場所の相撲には、前場所までの経験を無駄にしなかったことを感じさせます。持ち味は、あの右からの肩透かし。ただ、右を深く差すと小兵だけに腕を引っ張り込まれて、きめられてしまう苦い経験もしてきました。それを踏まえ、右は差しきるまではしないで、一方で左をうまく使って警戒をそらしています。それも単なるフェイントではなく、左からも攻めることを覚えました。相手の脇の下に手を入れたり、持ち上げたり引いたりと、自由自在に操っているから相手は「肩透かしに来るんじゃないのか?」と迷うし怖さもある。自分のペースに相手を引き込んでの7連勝です。

横綱、大関が不在で、さすがに「重さ」を感じることが難しい土俵です。あらためて貴景勝1人がいるだけで土俵が締まるんだと思い知らされた上に、その貴景勝もいなくなり、この状況に慣れなければいけないのは正直、寂しいです。翠富士には、そんな感情を吹き飛ばすような活躍に期待します。(日刊スポーツ評論家)