大関経験者で西前頭筆頭の朝乃山(30=高砂)が、4連勝で勝ち越しを決めた。幕内では取組前まで7勝4敗、直近は2連勝中だった小結阿炎を破った。相手のもろ手突きの立ち合いから、回転の速い突っ張りを受けながらも、左上手を引いて出し投げを打った。阿炎にはすぐに向き直されたが追撃し、土俵際まで押し込んだが、反撃に遭った。押し返されたが、朝乃山は上体の柔らかさで、のけぞりながら圧力を逃がし、相手がバランスを崩したところを突き落とした。8勝5敗とし、来場所で3年ぶりに三役に返り咲く権利を得た格好となった。

取組後は「土俵際に持っていった時に決めないといけない。しっかりと腰を割って、下から攻めないといけなかった。早く勝負をつけたいのか、上体で相撲を取っていた」などと、反省の言葉を並べた。勝ち越しを決めたが「1つでも白星を積み重ねていきたい」と、満足している様子は見せなかった。

前日12日目は、苦しみながらも、今場所で金星を挙げている西前頭3枚目の隆の勝を破った。なかなか左上手を引けない展開だったが、最後に力強く引きつけて寄り切った。それでも「当たってからの流れが悪かった。中に入られて、上体だけで寄ろうとしていた。そこがダメ。(最後は相手が)止まったので、思い切って上手をガバッと取って引きつけた」と、浮かない表情で話し、内容は課題山積を強調していた。

前日から、全取組後に審判部で会議を開き、翌日の取組を決めている。朝乃山がこの日の取組を終えた時点では、14日目の対戦相手は決まっていなかった。報道陣から優勝に王手をかけた尊富士と対戦したいか問われると「自分も優勝が懸かっていたらやりたいけど…」と話し、対戦に意欲的とまではいかなかった。

ただ、110年ぶりとなる新入幕優勝の壁になることを期待され、尊富士の14日目の対戦相手に指名されたのは朝乃山だった。昨年秋場所千秋楽では、同じ伊勢ケ浜部屋、同じく単独トップに立っていた熱海富士を、本割で破って初優勝を阻止するなど壁になっていた。審判部からの信頼は厚い。朝乃山も対戦を予感していたように「風呂場で一緒になった(若)元春には『尊富士、どうだった?』とは聞いた」と、初顔合わせに備え、情報収集には余念がなかった。

終盤戦に入った11日目の王鵬戦後に「残りが大事。全部勝つ気持ちでいきたい。(2桁白星の可能性は)なくはない。まだチャンスはある」と、力強く話していた。勝ち越しを決めたが、あくまで目標に掲げているのは2桁白星。現状で三役は、負け越しが決まっている小結錦木の陥落が確実で、1枠は空く見込み。本来は、番付が半枚上の東前頭筆頭宇良が勝ち越した場合でも、2桁白星を挙げていれば、3人目の小結として三役返り咲きの可能性も出てくる。目の前での歴史的な優勝を阻止し、千秋楽まで連勝を伸ばすつもりだ。