順天堂病院から他の病院へ転院すると、アントニオ猪木さんが電話で伝えてくれた。元気な声だったので安心した。ファンたちは、動画で猪木さんの動静を見ていて、早く退院して欲しいと願っている。

もう「延髄斬り」も「コブラツイスト」もビデオでしか見られないが、アントニオ猪木の創造力と感性は飛び抜けていた。近年のドタバタのプロレスとは異なり、私たちの想像をはるかに超す猪木プロレスが懐かしい。

本欄で私はジャンボ鶴田に、エジプトの古代遺跡のベニハッサンのレスリング図の技を研究すべしと説いた話を記述した。紙幅が許さなかったので書かなかったが、猪木の「コブラツイスト」はアテネ国立考古学博物館が所蔵する「レスラー小像、征服者としてのプトレマイオス5世」の像そのものである。本人に問いただしたことはないが、紀元前2世紀のこの小像は、「コブラツイスト」そのものであることがわかる。偶然なのだろうか、私は猪木のオリジナル技と思うが、そっくりだ。

このレスラー小像は、イタリアやギリシャで出土したのではなく、エジプトのアレクサンドリアだという。2016年6月から9月まで、東京国立博物館の平成館で「古代ギリシャ、時空を超えた旅」展が開催された。そこで私はこのレスラー小像を見て猪木の偉大さを学ぶ。

相手が抵抗すれば、なかなかこの技をかけることはできないが、説明書を読んで納得した。ヘレニズム時代の君主たちの中で、プトレマイオス朝の王たちが神とされた。王位を狙う反逆者を王たる神が仕留める彫刻だったのだ。そういえば、猪木の全盛期、猪木はファンたちの神としての存在だった。

「コブラツイスト」は、2200年前の古代エジプト時代の技の復元だったといえようか。もし、ジャンボ鶴田が、私の話を聞き入れてくれていたなら、おもしろかったと思う。ブレーンバスターそのものが、古代エジプトであったのだから。プロレス技術も温故知新だ。