日体大は体育やスポーツに関する功績のあった個人を、「名誉博士」の称号を贈って顕彰している。昨年末もミズノの水野正人会長に贈呈した。日本体育学会を長年にわたって支援され、体育・スポーツの学術研究の発展に寄与されたのだ。加えて、オリンピック招致のためにJOC副会長として裏方に徹して協力・努力された功績をたたえたのである。

谷釜了正日体大元学長は、「2度目の東京オリンピック招致を決断した石原慎太郎元都知事にも名誉博士号を贈って欲しい」と幾度も語られた。昨年の夏、長男の伸晃氏と話をする機会があったので「お父さんに伝えていただけませんか」と、私がお願いした。「そりゃあ、オヤジは喜びますよ」との返事だったが、届いたのは訃報だ。

意外に知られていないが、若き石原氏は「相撲に八百長がある」と指摘して相撲協会と対峙(たいじ)したことがあった。やがて、大相撲の八百長問題が白日の下にさらされ、数人の人気力士が土俵を追われた。2007年から東京マラソンを日本陸連と創設、市民ランナーたちに夢を与えた功績も大きい。ともあれ、オリンピック招致に2度も尽力されたリーダーシップを歴史にとどめる必要がある。

リオデジャネイロに敗れたが、16年大会の招致には、政財界を巻き込んで活動された。吉川元偉スペイン駐在日本大使(当時)の進言を私自身が都庁にいる石原都知事に伝えたが、喜んでいただいた。それは世界中にいる日本の外交官の協力を得る方法であった。外交ルートを通じて招致活動をしなかった最初の敗因を悟ったように思えた。

64年の東京オリンピックの招致功労者は、アメリカ在住で和歌山県御坊市名誉市民の和田勇氏と水泳連盟の田畑政治氏であろう。2020東京オリンピックは、石原慎太郎氏と竹田恒和前JOC会長の尽力でトルコ・イスタンブールなどに勝利したと私は決めつけている。その陰に水野正人氏のいたことも私たちは知っている。