「もっと、うまくできたら、いいのに…」。1989年(平元)の女優デビューから37年…鈴木京香(58)は、そう思い続けてきた。そんな鈴木が、完成した作品を見て「素直に良かった」と思えた映画と巡り合った。公開中の主演映画「キリコのタクト~YELL~」(雑賀俊朗監督)出演にあたり、ピアノの練習を10カ月も続け伝説の音楽教師の役を作り上げた。03年6月以来、23年ぶりに応じた日刊スポーツのインタビューで女優人生を語った。【村上幸将】
★10カ月間ピアノ練習
脚本を一読し、伝説の音楽教師・原田貴理子という役に“一目ぼれ”した。
「人の心にズカズカと入って、初対面は変な人に思われてしまうであろう人なのに、付き合いを深めていくと熱心さとか、本当の優しさって何かな、と考えてもらえるような温かい人柄に魅力を感じて」
脚本を手がけた雑賀俊朗監督(67)が着想を得た、いきものがかりの「YELL」の“ご当地”神奈川県厚木市で25年8月15日にクランクインするまでに10カ月、ピアノに取り組んだ。
「そんなに練習をさせてもらえないので、本当にありがたかったです。指揮は本当にヘタだったですし、ピアノも全く弾けなかった。はじめは月に2回だったと思いますけど、後半はもっと密にやらせていただきました。1日3時間くらい、やってました。家でもキーボードで練習していました。先生のおかげで1曲、弾けるようになりました」
関西弁でまくし立て、素養を感じた生徒は他部にいても合唱部に誘い、動物の鳴き声をまねた発声法などで徹底指導。合唱コンクールで全国一を勝ち取る個性的な役に難しさも感じた。
「最初は変な先生だと見られなきゃいけないけど、変にし過ぎちゃうと…かといって普通の先生で登場すると気味悪がられない。話を進めていく上で大事になる部分をどう作るか…難しいと思い、工夫しました」
★本当の部活のように
指導のシーンは教育実習を受けたかのように真に迫っているが…。
「私自身、音楽は全く苦手。親戚やいとこに学校の先生が何人かいるから、鈴木家は学校の先生は意外とできるのかも知れませんね。でも大学の時、友達が教員免許を取ったりしている時に、モデルの仕事ばかりをしていて、そういうことができなかったので。貴理子というキャラクターのおかげで、生徒としっかり向き合えたんだと思います」
教え子を演じる藤原大祐(22)井頭愛海(25)田辺桃子(27)西垣匠(27)と作り上げた合唱のシーンは、本当の部活のようだ。
「生徒の前に素直な気持ちで立つ役だったから私自身、緊張したり先生然とすることがなく音楽の好きなもの同士、向かい合うことができたんじゃないですか。メインの4人は生徒同士のまとめ役をやってくれたり、とても頼もしい、しっかりした俳優さんでした」
貴理子は生徒の私生活に踏み込み、思わぬトラブルに発展して足に障がいが残る大きなケガをする。足を引きずる芝居も要求された。
「足が不自由で、動き自体は制約される。心では、もっと突き進みたいのに素早く行動できない、もどかしさみたいなものは常に感じながらやっていたので、まさに、その(演じた貴理子と同じ)気持ちでした」
★常にもどかしさ感じ
25年の映画「栄光のバックホーム」で阪神の元選手・横田慎太郎さんの母まなみさん、テレビ朝日系4月期ドラマ「未解決の女 警視庁文書捜査官 Season3」では文字フェチの刑事・鳴海理沙と、主演級の役が途切れず、役の幅も広い。向き合うバイタリティーは、どこにあるのか。
「今の仕事をさせてもらっていることが、元気で積極的に進めていきたい原動力になっている。仕事が好きということに尽きます」
03年のインタビューでは「いつやめるかなと思いながら、もう15年」と語った。そのことに話を向けると、照れたように笑った。
「三十何年もやっていると思うとゾッとしますね。そんなにやっているのに、成長していないなと思って…情けないです。元々、映画を見るのも好きで、最初の頃は好きで楽しく仕事はしているんだけど、完成した作品を見ると、もっと自分が作品の役に立つにはどうしたらいいかな、ばかり考えていました。その気持ちは、いまだにあります」
前年の02年7月に父進さんが亡くなった際、実家に大勢の記者が駆けつけたことにも触れ「自分の置かれている立場を以前より強く自覚しました」とも語っていた。そのことを伝えると、静かに口を開いた。
「実際、気持ちの上での踏ん切りができたつもりでしたけど、どちらかというと、前に出て行く力強い意思が足りないのは事実。自分のプライバシーみたいなものは、わざと見せるものじゃないと思うことはあります。ただ、皆さん、わざわざ仙台の父の葬儀場まで来てくださったことを思うと、その時に、きちんとした対応ができないのは良くないと、本当にその時は思って。でも、今もプライベートのことに関して、堂々と自信を持って知ってもらったら面白いとか、そういう風に思えるかと言うと、まだそうでもないですね」
★作品の役に立つには
今後は、どういうビジョンを描いているのか。
「やったことのない役を、やり続けたいと思っているので。年を重ねていけば、相応の役をちょうだいできるように自分自身の中身を、もうちょっと色濃く、重みを増して育てていかなければいけないな。まだ、ちょっと…ボンヤリ、ポーッとしていますので(笑い)もうちょっと円熟味のある演技ができるように。自分の中身の問題だなと思っていて、お仕事だけじゃなく、興味を持ったもの、しなくちゃいけないものに、どんどん手を広げる、知識を広げることは、していかないといけないと感じています」
改めて具体的にやりたい役を問いかけたが、今は思い浮かばないという。17年のNHK連続テレビ小説「わろてんか」以来10年ぶりに再び親子役で共演する、松坂桃李(37)主演の27年の大河ドラマ「逆賊の幕臣」で小栗上野介忠順の母くにを演じることも大きい。
「前は、ものすごい悪い役って言っていたんですけど、そういう感じでもないなぁと。今、やっている役があるから、先のことが思い付かない(松坂は)すてきな青年です」
23年5月には、体調不良と病気療養のため休養し、24年3月に復帰した。今の体調を聞くと…。
「はい、おかげさまで。最初は、不安でしたけれど、大丈夫でした」
広がった笑みは、香り立つような輝きを放った。
▼教え子の西川花蓮を演じた井頭愛海(25)
(合唱シーンは)楽しかったです。京香さんの指揮がすばらしくて、つい笑顔になっちゃいました。貴理子先生の指揮を見ていると、本当に心から歌っている気持ちになり、撮影している時も先生だけを見ていれば大丈夫という安心感がありました。京香さん自身からすごく優しいオーラがにじみ出ているので、そのパワーをいただきながら撮影に挑めたのは本当に良かったです。
◆鈴木京香(すずき・きょうか)
本名同じ。1968年(昭43)5月31日、宮城県生まれ。高校時代にスカウトされモデル活動を始め、88年にカネボウの水着キャンペーンガールで注目される。東北学院大卒。89年の映画「愛と平成の色男」(森田芳光監督)で女優デビュー。91年のNHK連続テレビ小説「君の名は」でヒロイン。04年の映画「血と骨」(崔洋一監督)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。24年「グランメゾン・パリ」(塚原あゆ子監督)など出演作多数。








