7月期の夏ドラマが出そろった。外出率が高く、視聴率で苦戦しがちな夏対策なのか、主要枠の新作10本の内訳は、韓流リメーク3、マンガ原作4、小説・ノンフィクション原作3。オリジナル作品なしという異例のラインアップとなり、個人的には満点は1作品のみだった。「勝手にドラマ評」39弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた（シリーズもの、深夜枠は除く）。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
- フジテレビ月9ドラマ「監察医 朝顔」
◆「監察医 朝顔」（フジテレビ、月曜9時）上野樹里／時任三郎
★★★★☆
娘は監察医、父親は刑事。親子タッグで死の真相に挑む。「東日本大震災で母親が行方不明」という原作にはない設定で大胆に改変し、「死者の物語」の法医学と「父娘の再生」というホームドラマの両輪を映像で丁寧に描いている。1話は母親が不審死した女の子の後悔、2話は生きたかった人と自死を選んだ人の対比。原作をうまく分解、再構築し、主人公にきちんとリンクする。東北の駅で足がすくみ、引き返す電車のシーン。声を殺して泣く上野樹里を無音で撮り続けた映像に、この作品の覚悟と願いが込められていたと思う。個人的にホームドラマが苦手なのと、月曜からちょっと重いのとで「ラジハ」ほど次が楽しみとはなりにくいが、志ある快作。
- テレビ東京ドラマBiz「リーガル・ハート いのちの再建弁護士」
◆「リーガル・ハート～いのちの再建弁護士～」（テレビ東京、月曜10時）反町隆史／小池栄子
★★☆☆☆
中小企業を倒産から救う弁護士の奮闘。1話は魚市場、2話は老舗旅館。借金8割カットの「私的再建」や「会社分割」など面白そうな戦略は出てくるが、実現への方策は土下座と誠意と「あきらめない心」の精神論だった。人間力は大事だが、“法と人間は使いよう”のしたたかさと両輪で圧倒してくれないとリーガルものとしては寂しい。「人間にとって大事なのは命です」「銀行員である前に人間であれ」。標語みたいなせりふと、お涙主義で解決。タイトル通り、熱い「ハート」や人情ものが好きな人にはおすすめ。枠創設6作目で、なんだか日曜劇場寄りの作風に。初期の「ヘッドハンター」「ハラスメントゲーム」あたりの志が恋しい。
- フジテレビ系ドラマ「TWO WEEKS」
◆「TWO WEEKS」（フジテレビ、火曜9時）三浦春馬／芳根京子
★★★☆☆
韓流リメーク。白血病の娘のドナーに決まった日に殺人犯のぬれぎぬを着せられた父親が、2週間後の手術を実現させるため逃亡。護送車横転、バイクで逃走、森での格闘、ビルから飛び降りなど、逃亡劇お約束のアクションに三浦春馬の身体能力がはまる。子役との約束シーンが温かく、意外な父性にドキッとさせられる。検事、刑事、政治家、闇の組織が異なる目的で彼を追い、どこが手を組んで裏切るのかも今後の見どころ。人と出会いながら成長する逃亡劇の醍醐味（だいごみ）があるだけに、常にめそめそと立ち往生する女性検事や守られキャラの母親など、女性陣がテンポを止める展開は残念。かっこいい三浦春馬の主演力と、賢い子役に救われる。
- TBS火曜ドラマ「Heaven？～ご苦楽レストラン～」
◆「Heaven？～ご苦楽レストラン～」（TBS、火曜10時）石原さとみ／福士蒼汰
★★☆☆☆
フレンチ店のわがままオーナーと、振り回される従業員。レストランものも石原さとみも好きなので期待したが、作風が好みとは違った。顔だけ幽体離脱して心の声をしゃべるとか、頭上に「諦観」の文字が輝くとか、過剰な画面演出に目が行って話に集中できず、表情を見てもらえない俳優陣も得するものがない。3話で、財前直見＆鶴見辰吾と小細工なしでがっぷり組んだ展開の方が爆笑だった。「アンナチュラル」であれだけの世界観を表現してみせた石原さとみを、自信家の女王様キャラといういつもの路線に閉じ込めようとするのも謎。このオーナーについていく動機がよく分からないので、頑張って話を進めてほしい。
- 日本テレビ水曜ドラマ「偽装不倫」主演の杏
◆「偽装不倫」（日本テレビ、水曜10時）杏／宮沢氷魚／仲間由紀恵／谷原章介★★☆☆☆
32歳独身女子が、「既婚」とウソをついたことで始まる恋。原作は「初めての韓国旅行で、相手は韓国人男性」という異国のアバンチュール設定なので、既婚者タグでの非日常も理解できるが、ドラマ版は博多旅行で日本人と。ガチな国内で「今夜だけ僕のものになって」「伴野丈（ジョバンニ）と鐘子（カムパネルラ）で『銀河鉄道の夜』だね」のメルヘンに困惑する。心の声や鏡の中の自分が「どうなるワタシ～」「ひょっとして殺し屋？」などとしゃべりっぱなしなのも苦手。独身だと言えば済むなんちゃって不倫より、ピンク頭の年下相手に「独身」とウソついてマジ不倫している姉（仲間由紀恵）サイドの不穏の方が面白い。
- テレビ朝日木曜ドラマ「サイン－法医学者 柚木貴志の事件－」
◆「サイン－法医学者 柚木貴志の事件－」（テレビ朝日、木曜9時）大森南朋／松雪泰子／飯豊まりえ
★★★☆☆
権力の闇に立ち向かう敏腕解剖医の法医学サスペンス。権力にふみにじられて左遷される経緯、というありがちな1話がどうでもよすぎて脱落しかけたが、大森南朋と飯豊まりえのバディものが動きだした2話は面白かった。「ゴミ」「消えろ」と偏屈な師匠に食らいつく若手のひたむきなガッツを飯豊がすっきりと演じ、決して泣かないシーンも、涙が止まらないシーンも魅力的だった。キャリア警察官（松雪泰子）とその部下（高杉真宙）のバディものも効いていて、2層のバディ構造が捜査にうまく作用し合っている。法医学界の権力闘争という縦軸になると流れが止まる。バディものでサクサク楽しみたい。
- フジテレビ木曜劇場「ルパンの娘」
◆「ルパンの娘」（フジテレビ、木曜10時）深田恭子／瀬戸康史
★★★★☆
脚本、演出が映画「翔んで埼玉」の座組み。泥棒一家と警察一家の許されない恋という「ロミオとジュリエット」の構図に「キャッツ・アイ」のお色気レオタードを押し込み、ふざけたチャレンジが不思議な調和。怪盗「Lの一族」のトンデモ夫婦、渡部篤郎＆小沢真珠の下級貴族みたいなやりとりがおもしろすぎる。「紙パンツはいて横になれ」の小沢真珠に今期の助演女優賞。「帰ってきたウルトラマン」のワンダバなBGMや秘密道具の数々など、昭和世代がハマりそうな小ネタも作り込まれ、大味を支える丁寧な演出。逆に、常識人として流されているだけの主人公カップルの魅力が弱い仕上がり。現状、深キョンの見せ場は美ボディーのみ。
- TBS金曜ドラマ「凪のお暇」
◆「凪のお暇」（TBS、金曜10時）黒木華／高橋一生／中村倫也
★★★★★
空気を読むことに疲れたOLがすべてを捨てて人生リセット。新居のアパートでのほっこりした人間模様や、美しい夏の風景が「すいか」（03年、日テレ）っぽい傑作の予感。意思を伝えるという明確な目標を持ち、1歩ずつ進むヒロインに応援のしがいがあり、変なオカルトに勧誘され「この石に興味がありません」の展開ひとつにもドラマがある。器の小さいモラハラ体質の元カレ、高橋一生がベストな仕上がり。早く消えろというクズっぷりと、1人超絶大号泣の振り幅にへそ曲がりの奮闘があり、爆笑な後味。対する謎の隣人、中村倫也のひだまり感。必然のある頭ぽんぽんと「芝ドン」に息止まる。次は何が起こるのか、1話完結しない連ドラ本来の力。
- 日本テレビ土曜ドラマ「ボイス 110緊急司令室」
◆「ボイス 110緊急司令室」（日本テレビ、土曜10時）唐沢寿明／真木よう子
★★★☆☆
韓流リメーク。妻を殺された敏腕刑事と、特殊聴覚を持つ声紋分析官が通報者の「声」を頼りに事件解決。「3分で現場到着、5分で現場確認、10分で逮捕」というカウントアップの設定はしっかりあるが、女性への暴力描写と悲鳴ばかりのお化け屋敷状態が長いのと、回想シーンの多さでタイムサスペンスのテンポが止まりがち。司令室を仕切る真木よう子が「連続さつずんずけん」「べつづんです！（別人です）」の滑舌ワールド。人命を守る現場の司令塔としては致命的。緊迫のシーンがつんのめる。本人より、キャスティングした人の問題。殺害された妻役の菊池桃子が素晴らしく、残された唐沢寿明の怒りに感情移入できるのが救い。
- TBS日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」
◆「ノーサイド・ゲーム」（TBS、日曜9時）大泉洋／松たか子／上川隆也
★★★★☆
製造ラインの総務部長に左遷されたエリートと、お荷物ラグビー部の再生。いつもの日曜劇場だが、広々としたラグビー場のシーンがあるせいか、顔面どアップ率が薄まって意外と見やすい。ラグビー音痴だが、経営戦略のプロ。知略に裏打ちされた素人手腕の突破力を大泉洋が端正に演じ、「サラリーマンに努力賞なんてないんだよ」「最後にボールをつかんでいたやつの勝ちだ」など共感できるせりふも多い。ノーサイドの精神、タックルの本当の目的など、ルールや戦略がうまく物語に織り込まれ、競技知識ゼロの人でも楽しめる。本社との人事バトルと、ヒール役の上川隆也も期待通りエグい。勝つしかない者たちの、汗と涙の一本道。夏らしくていい。
【梅田恵子】（ニッカンスポーツ・コム／芸能記者コラム「梅ちゃんねる」）
