あでやかな浴衣に編み笠、げたの音。お盆の夜、テレビが映す私の新聞記者としての最初の赴任地、徳島の阿波おどりに、ふと「娯茶平連」などの有名連とともに「桐々(きりきり)舞い」という名の連を思い出した。
ちょうどこの日、検察のトップ、女性初の畝本直美検事総長が退任の記者会見。「検察なめんな」の暴言検事や、捜査対象の女性との不適切な関係。「国民に申し訳なく思う」と、ほぼ謝罪の言葉ばかりが並んだ会見が私の心に残っていた。
さて、その「桐々舞い」は私の徳島時代、徳島地検の阿波おどりの連の名だった。検事のバッジが厳しさを表す「秋霜烈日」であるのに対して検察事務官のバッジは高潔さの象徴、「五三の桐」をかたどったもの。連の名は、その桐と日々の忙しさを掛けたものと聞いた。
ほかに、裁判所は神聖なものしか映さないといわれる神話の「八咫(やた)の鏡」に由来した「かがみ連」。警察は「桜連」。役所のなかでもお堅いといわれている人たちが有名連と並んでカクテル光線のなかにいた。
普段は仏頂面しか見せたことがない次席検事が、なぜか早くから浴衣の裾をからげ上げている。私たち記者から泣く子も黙る鬼検事といわれているクマさんが、照れ隠しなのか、たる酒をあおっている。
転勤族の検事が赴任地での思い出を聞かれると、真っ先にこの阿波おどりの連をあげる人が多いとも聞いた。
単に「郷に入れば、郷に従え」ではない。互いの汗を浴びれば、地位も家族もある人を「幼稚園児か」とは怒鳴れない。捜査のために借り上げたホテルの部屋を女性との密会に使うことなど考えもつかないはずだ。
総長や検事長の訓話や通達も大事だ。だが、その一方で半世紀も前、先輩検事たちは、権威を保ちながら「平場の検察」をなによりも大切にしてきた。
そんな姿勢を「よしこの」のお囃子(はやし)に乗せて、いまに届けることはできないか。ふと思う晩夏の季節である。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。東海テレビ「ニュースONE」静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」など出演中。


