神宮外苑地区には有名なイチョウ並木だけでなく多くの樹木が広がる=22年3月5日撮影
神宮外苑地区には有名なイチョウ並木だけでなく多くの樹木が広がる=22年3月5日撮影

昨年夏、東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式が開かれるなど、スポーツの祭典の中心地となった国立競技場。旧国立競技場からの建て替えの際は、本当に必要なのか、その是非をめぐって賛否両論となったが、その国立競技場周辺の神宮外苑の地で、再び物議を醸す事態が起きている。

この地域では、2036年の完成に向けた大規模な再開発の計画が予定されている。その過程で、1000本近い樹木が伐採される予定であることが、今年2月に明らかになった。周辺住民らからは反対の声が起きている。関係者に話を聞くと、事前に住民らが納得できるような十分な説明がなされなかったことも、反対の声が出る一因のようだ。「説明不足」。国立競技場の建て替え問題が起きた時と似た構図のようだと思い出し、デジャブ(既視感)を感じる。

今ある神宮球場や秩父宮ラグビー場が場所を入れ替えて新たに建て替えられるなど、現地で再開発計画が行われることは、これまでにも表に出ていた。商業施設やオフィスが入る2つの高層ビル建設も予定され、三井不動産や伊藤忠商事、明治神宮などが事業者となり、環境影響評価書案を都に提出。2月9日、東京都の都市計画審議会はこの計画案を承認したが、直前になって樹木の大規模伐採計画が明るみに出た。

先月27日、この問題に関する緊急勉強会が都内で開催された。「イチから知りたい神宮外苑再開発」と題され「この問題を多くの人に知ってほしい」という観点から開かれた。全容が十分に伝わっていないといわれることも、うなずけた。

神宮外苑の再開発に関して緊急の勉強会が開かれ、近隣住民らが参加した(22年2月27日撮影)
神宮外苑の再開発に関して緊急の勉強会が開かれ、近隣住民らが参加した(22年2月27日撮影)

主催者によると昨年12月14日、140人を対象にした住民説明会も行われたものの「再開発計画はもう決まっていて、説明申し上げるだけというスタンス」だったと、広報体制の不足を指摘。パブリックコメントの募集も行われたが約2週間。都の都市計画審議会で賛成多数で承認となった。

伐採される樹木は、エリア内にある1904本のうち892本。戦前に植えられ育ち、樹齢100年の木も含まれる。保存、移されたりする樹木もあり、新たに979本が植えられるという。伐採される892本のうち、763本は「風致地区(自然的な景観を守るため、建物を建てたり樹木伐採に一定の制限があり、許可が必要)」にある。有名なイチョウ並木は保存されるというが、一体の景観ががらっと変わることは容易に想像できる。

この計画をめぐっては、国連教育科学文化機関(ユネスコ)諮問機関の国内組織、日本イコモス国内委員会が都市計画審議会の直前、計画の見直しを求める異例の提言を公表。「神宮外苑は、公共性、公益性の高い文化的資産。都は破壊ではなく継承していくべき」と、くぎを刺していた。

インターネットの署名サイト「change.org」では、計画見直しなどを求める5万1536人分の署名が1カ月弱で集まり、3月2日に要望書とともに小池百合子知事あてに提出された。これとは別に、高校生たちが現地周辺で街頭署名を集める活動も行われ、明日3月7日に都に提出される。

計画を正式に認めるかどうかは、近く小池知事が判断する。国立競技場建て替えの際にもさまざまな活動を行った1級建築士の大橋智子さんは「制度的には着々と(手続きが)進んでおり、(見直しの動きを強めるには)世論しかない。(世論を動かし)小池さんの決定に影響を与えるのが大事」と指摘していた。

今回と事情も環境もまったく異なるが、先日亡くなった石原慎太郎さんが都知事時代だった2007年、参院議員宿舎の建て替え計画に伴い当初予定地とされた場所に多くの緑があったことから、伐採への反対運動が起きた。紀州徳川藩邸跡地で都心でも珍しい自然豊かな場所を、当時副知事だった猪瀬直樹氏と視察した石原氏は「この緑をつぶすのは反対だ」と述べ、翌2008年、最終的に国との間で計画の白紙撤回にこぎつけた。都知事の判断として大きな注目を集めた。今回、住民から都知事に見直しを求める声が出ている点では似ている。元環境相で勝負カラーも緑の小池氏の足元で波紋が広がる、再開発計画に伴う樹木伐採問題。その判断に関心が集まっている。【中山知子】