中軽井沢から鬼押出しへ抜ける上り坂。筆者は地上2mの高さをドローンに乗って滑空している……ような気分になった。
実際に操っていたのは最新型のランドローバー・レンジローバー。「オートバイオグラフィーD300」というディーゼルエンジン搭載モデルだ。ディーゼル車がガソリン車並みにパワフルであることはもはや珍しいことではなくなったが、300ps/650Nmという額面の数字から想像するよりずっとたくましく加速するだけでなく、誰かから「これはV8ガソリンのトップモデルです」と吹き込まれたら信じて疑わないほど、静かでスムーズだ。
アクセルペダルをコントロールする右足にさらに力を込めると、姿勢の変化をほとんど感じさせないまま、コーナー内側の後輪が軽くヒュルルと空転すると同時に、トラクション・コントロール・システム作動の表示がメーターパネル上で点滅する。
太いアルミ製ロワーアームに支えられるタイヤからステアリングホイールまで、精密さの連鎖を感じることができる。ドローンのような浮遊感は、新たに電動式となったロール制御機構「ダイナミックレスポンスプロ」により、速いコーナーで車体のロールをほとんど意識させないせいだろう。
■ランドローバーのトップモデル
およそ9年半ぶりに全面刷新されたレンジローバーは、イギリス・ランドローバー社のトップモデルである。同様にレンジローバーという名を持つ「イヴォーク」「ヴェラール」「スポーツ」の3車種と異なり、単に「レンジローバー」とだけ呼ばれる。
1970年の登場以来、悪路踏破性能を追求しながら、快適性や高級感にも磨きをかけてきたレンジローバーは、イギリス王室御用達の最高級4WDとして知られるようになった。頑丈でぜいたくに作るほど、クルマの重量は増し運動性能は失われていくものだが、電子制御エアサスペンションやオールアルミ・ボディーといった先進技術をいち早く採用するなど、「究極の多目的乗用車」であり続けてきた。
5世代目となる新型は、複雑きわまるその技術的内容を包み隠すかのように、シンプルに見える内外装デザインを採用した。「レンジローバーといえば、こんなカタチだよね」と誰もが想像するような2ボックス・ボディーでありつつも、見る人が見ればあまたの工夫を、絶妙なバランスのもとで凝らしている。日本デビューの報道試乗会は、そうした巧みなスタイリングと呼応する佐藤オオキ氏の新作「土管のゲストハウス」が拠点となった。
■50年の積み重ねの中で考え尽くされている
車両の全高は1870mmにおよび、運転席はよじ登るような高さにあるが、ロックを解除すると床下から自動でステップが現れて乗降を助けてくれる。駐車時や走行時はドアパネルと面一になっているドアハンドルも、必要に応じてポップアップする。
ダッシュボードやセンターコンソール、タッチパネル・ディスプレーはそれぞれ極端な存在感を主張せず、適度なボリューム感に収められているから、コックピットからの眺めはこれまでランドローバーに親しんだ多くの人を安心させるはずだ。ドライビングポジションや、フロアとダッシュボードの高さの関係など、50年の積み重ねの中で考え尽くされているのだろう。
エンジンを始動してまず驚かされるのは、直列6気筒ディーゼルターボ・エンジンの穏やかさだ。エンジン自体が発するノイズや振動も抑えられているのだろうが、いろいろ観察するとそれらの伝達を徹底的にシャットアウトしようとしていることが見て取れる。
エンジンルームを観察すると、パワーユニットの周囲は360度パネルで囲われており、分厚いラバーを挟んで重いボンネットで上から封をするように覆われる。サイドウインドーは2層式の「アコースティックラミネーテッドガラス」を採用して車外騒音が室内に及ぶのを遮断し、さらに「アクティブノイズキャンセレーション」によってスピーカーを通じてノイズを打ち消す仕組みが導入されているのだ。
タイヤが転がり始めてすぐに、上下動が少なく想像以上に乗員の目線が安定していることに気づく。23インチ径と巨大なタイヤ&ホイールはかなりの重量と思われるものの、乗り心地への悪影響は考えられる最小限にとどめられている。
前述したアクティブノイズキャンセレーションや、直進中は左右輪の動きを許容することでしなやかな足さばきを可能にするダイナミックレスポンスプロがここでも効果を発揮しているためか、上下動にともなうゴツゴツ感は左右輪が同時にストロークした場合を除いて、ほとんど気にかかることがなかった。アルミモノコック・ボディーの強固さも貢献しているはずだ。
ディーゼル・ユニットがもたらすパワーが十分なことと腰の据わったフットワークの優秀さは記事冒頭に述べたとおりで、一般道を常識的なペースで走らせる限りまったく不足は感じなかった。むしろこれだけ高い着座位置と視点のまま、ほとんどロールすることなくワインディングロードを駆け抜けていくさまに、車高の低いスポーツカーとは異なる新しい快感を覚えたくらいだ。
竣工まもない「土管のゲストハウス」の取り付け道路は木々を縫うような未整地路で、その出入りの際に新採用の4WSシステムによる小回り性能の向上を実感したのに加えて、今回機会がなかったオフロードやスノーといった状況をいつかこのレンジローバーで経験してみたいものだと思わせた。
■車両本体2000万円超を買う顧客層
新型レンジローバーの受注は世界的に好調らしく、試乗会に参加した7月末の時点において、すでにV8ガソリンの標準モデルは当面の入荷分が売り切れているそうだ。ランドローバーのホームページには「既に3年分の生産予定の受注台数に達してしまいました」とある。現在、注文できるグレードは一部に限られている。
車両本体価格は最も安価な標準グレードでも1687万円から。今回筆者が試乗した車両を含め、多くのケースで車両本体価格が2000万円を超えると思われる新型レンジローバーの想定する顧客層はどのようなものなのだろうか。
ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン社長は、「世帯年収や年齢層で区別したターゲットは設けていません。あえていうなら、レンジローバーの価値観に共感する各分野のリーダーの方々です」と話す。
さすが孤高の最高級車、カッコいい模範解答だ。一歩踏み込んでローンやリースの利用状況について尋ねてみよう。「日本の場合、最初の2年間は現金で買う方が多いと想定しています。ほかの国には見られない傾向なのですが、ご自分の名義にして乗ることを希望される方が多いようです」とのこと。あなたが路上で初めて出会う新型レンジローバーのオーナーは、そうとうに裕福な人である可能性が高いということだ。
【田中 誠司 : 編集者、PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役】













