将棋の最年少プロ、藤井聡太七段(16)が20日、名古屋市内で行われた第12回朝日杯オープン戦本戦トーナメントの1回戦で稲葉陽八段(30)、準々決勝では元竜王の糸谷哲郎八段(30)の2人のA級棋士を破り、ベスト4に進出した。大盤解説した木村一基九段(45)は「2戦ともほぼノーミスの完全試合」と絶賛した。同棋戦の連覇は羽生善治九段(48)のみ。史上2人目の連覇まであと2勝だ。
藤井がA級棋士を圧倒した。地元・愛知で開催された朝日杯。対局はファンに公開され、大盤解説会と合わせて約450人が詰めかけた。終局後、地元ファンは「強い」と驚きの声とともに納得の表情を浮かべた。
「地元の方に見ていただける機会は少ないので、すごく励みになりました」。午前中の1回戦は、得意の角換わりの戦型から積極的な攻めを見せ、稲葉を下した。糸谷との準々決勝は、中盤に優位を築き、押し切った。稲葉、糸谷とも名人への挑戦者を決める順位戦で最上位のA級に在籍するトップ棋士。大盤解説した木村一基九段は「プロでも1局のうち1つか2つはミスはするものだが、ほぼノーミス。2局とも仕掛けてからは優位に運び、“完全試合”といってもいい」と絶賛した。
2度目の対戦となった稲葉は「成長されている。強敵です」と完敗を認めた。早指しの名手といわれる糸谷は「踏み込みが鋭い。スピード感がある」と負けを認めながらも、トッププロとしての素直な感想を話した。
昨年の朝日杯では15歳6カ月の史上最年少で棋戦初優勝。中学生棋士としての棋戦優勝は史上初の快挙だった。今回は前年優勝者のため、シード枠として本戦から参加し、堂々のベスト4進出を果たした。高校生プロは「自分なりに思い切り指せたのがいい結果につながった」と振り返った。
2月16日に東京都内で準決勝と決勝が行われる。藤井は準決勝で行方(なめかた)尚史八段と対戦する。「今年も準決勝の舞台で戦えることをうれしく思います。行方八段とは初対戦ですが、居飛車党の本格派の先生という印象があります。思いっきり、ぶつかっていけたらなと思います」。高校プロが史上2人目の連覇を目指す。【松浦隆司】
<藤井昨年度VTR>
1次、2次予選と突破して本戦に進出した藤井は1月14日、名古屋市内で行われた1回戦で澤田真吾六段のミスを逃さず快勝。準々決勝では佐藤天彦名人を相手に、序盤から正確な指し回しで圧倒した。それまで3回、ベスト8止まりだった公式戦で、初の4強入りを果たした。
2月17日に都内で行われた準決勝では、羽生善治竜王(当時、現九段)との難解な局面で落ち着いた手順を披露。わずかなリードを守りきった。決勝でも、広瀬章人八段(当時、現竜王)にチャンスを与えず押し切った。
15歳6カ月での公式戦初優勝は、加藤一二三・九段(引退)が1955年に達成した15歳10カ月を上回る史上最年少記録。藤井は同日付で、同じく史上最年少で六段に昇段。五段昇段からわずか16日での達成となった。