京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオの放火殺人事件で、京都府警は2日、犠牲者35人のうち10人の身元を公表した。

07年の「らき☆すた」監督の武本康弘さん(47)、映画が公開中の「Free!」総作画監督の西屋太志さん(37)、82年の「さすがの猿飛」アニメ映画「クレヨンしんちゃん」シリーズなどを手がけ、京アニを代表するアニメーターの木上益治(きがみ・よしじ)さん(61)が含まれていた。武本さんと木上さんは取締役で、同社のプロ養成塾の講師も務めていた。

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平成以降、最悪の犠牲者を出した痛ましい殺人事件の発生から半月が経過した中、犠牲者10人の身元だけを公表する異例の発表となった。捜査関係者は「発表ありきではなく、遺族にご理解いただき、葬儀を終えられた方を公表した」と、京アニや遺族に最大限に配慮し、理解を求め、調整した結果だと説明した。

木上さんは、80年の映画「ドラえもん のび太の恐竜」の動画、82年のアニメ「さすがの猿飛」、大友克洋監督の88年の映画「AKIRA」などの原画を担当。キャラクターや背景を回転させる斬新な演出がウリで、コナミのゲーム「実況パワフルプロ野球」のオープニングに生かされた。後に京アニを支える監督らの師匠的な存在だった。

武本さんは、京アニ人気を不動のものとした06年「涼宮ハルヒの憂鬱」で演出を担当。テンポの良い作品作りがファンに支持され、監督を務めた翌07年の「らき☆すた」では、舞台の埼玉県久喜市の鷲宮神社などをファンが訪れる“聖地巡礼”の先駆けとなった。

一方、逮捕状が出ている青葉真司容疑者(41)は、大阪の病院で治療を受けているが容体は予断を許さない状況が続いている。捜査関係者は「受け応えができる状況ではなく、重篤な状況に変わりはない」と説明。自宅からは、京アニ作品の書籍、白紙の原稿用紙のほか、木上さんがシーン演出、武本さんが絵コンテ、演出を担当したアニメ「響け! ユーフォニアム」の色紙が押収された。

事件3日前の15日には「響け!~」の舞台となった京都府宇治市内の防犯カメラに同容疑者の姿が映っていた。書き込んだ人物は分かっていないが、事件以前にインターネット上に「京アニに原稿を落とされた」などの投稿もあり、府警が捜査している。捜査関係者は「容疑者と作品が、どう絡むかを含めて、あらゆる方向から捜査している」と説明した。【村上幸将】