スウェーデンの王立科学アカデミーは9日、19年のノーベル化学賞を、旭化成名誉フェローで名城大教授の吉野彰氏(71)ら3人に授与すると発表した。スマートフォンなどに使われるリチウムイオン電池を開発し、情報化社会を支えたと評価された。

日本人27人目の受賞者の吉野氏は同日、東京都内で開いた会見で、同電池が初めて広く使われた携帯電話“ガラケー”を「使ったことがない」と言い会場を沸かせた。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金900万クローナ(約9700万円)が贈られる。

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吉野氏会見一問一答

-研究者に必要なこと

「頭の柔らかさと、真逆のしつこく諦めない執念深さが必要。その柔と剛のバランスが難しい。大きな壁にぶち当たった時も『何とかなるよね』と。そういう柔らかさがいるんじゃないかな。もう1つは未来が必要とするか…間違いなくゴールがあるかを確信できれば、少々の苦労があってもやり遂げられる」

-最も深かった苦労は

「俗に基礎研究は、苦労する『悪魔の川』、開発研究でまた苦労する『死の谷』、製品を世の中に出しても5年ぐらい売れない『ダーウィンの海』と言う。「ダーウィンの海」が一番、深い。約3年ぐらい全く(結果が)出なかったが、突然出だしたのは95年。ウィンドウズ95が出てIT革命が始まった。研究開発投資も相当で設備投資も始まっていたので、真綿で首を絞められる思いでした」

-子どもたちへ

「誰かにきっかけを与えられ、将来の道を決めていく時期が必ずあると思う。私は小学3~4年だった。最近では全英女子オープンゴルフで、しぶこさん(渋野日向子)が勝たれましたよね。日本が大騒ぎするような明るい話題で、子供が将来を決めるきっかけにしてもらうといい」

-研究以外のジャンルにも興味を持っている

「専門的なことを考えても研究の答えは出てこない。関係のない分野に関心を持つのは大事。歴史学は現在に至る過去の出来事の流れが全て記され、読み解くと未来が見え、研究のかなり面白いツールになる。NHKの『歴史秘話ヒストリア』は、裏で何があったかという観点から掘り下げられていて非常に面白い」

-受賞後の心境は

「実感が湧いてなかった。一番嫌なのは電話インタビュー。私の英語が世界中に流れ、広まっちゃう。会見の場に来てホッとした」