政治生命もかかる徹底抗戦だ。東京都の小池百合子知事は30日、東京五輪マラソン・競歩の会場変更を協議する国際オリンピック委員会(IOC)の調整委員会で、札幌ではなく、あくまでも東京での開催を求めた。ラグビー日本代表の合言葉「ワンチーム」を連発し「大会成功のべースは信頼だ」と、くぎを刺した。ただ、ジョン・コーツ調整委員長は、札幌移転が決定事項と強調。結論が出るのは11月1日の4者協議。大会組織委員会の森喜朗会長の調整力が鍵を握る。

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「1400万人都民の代表として話すことを、お許しいただきたい」。小池氏は冒頭、東京都民を背負った主張と強調した。同時通訳もあったが、わざわざ自分で通訳。日英2カ国語で約12分の大演説をぶった。

今月3日に東京の準備状況を評価したIOCのバッハ会長が一転、マラソン・競歩会場の札幌変更を発表。「都民は衝撃を受けた。都にも詳しい説明はなかった」と、不信感をあらわにした。準備の総仕上げ段階での変更だけに「最後まで相談や議論がなかった。極めて異例の事態」と強調。「開催都市とは何なのかと怒りが寄せられている」と、都民の声を紹介した。

マラソン・競歩は五輪の花形競技。都は、東京の世界への発信を見据えてきた。IOCの助言を得て対策を進めた自負もあり、暑さ対策に約300億円の税金を投じた。「アスリートファーストは重要だからこそ、準備してきた。選手や地元の人の気持ちをないがしろにできない」と述べ、「都民の代表として、東京での開催を望みたい」と訴えた。取材にも「IOCは『ディシジョン(決定)』と言ったが、私どもはそう受けていない」と明言した。

ラグビーワールドカップで躍進した日本代表の団結を示す「ワンチーム」。小池氏はその言葉を、皮肉まじりに使った。「ワンチームで大会を成功させたいという強い思いは、この場にいる皆さん共通と思います、そうではないでしょうか」と、わざわざ確認。「信頼関係なく大会の成功はない」と、くぎを刺した。森会長も「ワンチーム」を口にしたが、小池氏のニュアンスは異なった。

小池氏の政治信条は「大義と共感」。大義を振りかざしても、共感がなければ物事は進まないが、今は大義の観点が小池氏とIOCにずれがある。東京大会直前には、都知事選の投開票が見込まれる。小池氏の再選出馬は既定路線だが、都民に共感を持たれる結果が出ないと再選戦略にもずれが出る。対立候補をめぐり、さまざまな思惑が飛び交う永田町では、関係者が「小池さんの政治生命がかかる駆け引きだ」と話した。

組織委は4者協議に先立ち、都の要望を受けて非公開の実務者協議も開く。小池氏が納得できる結論は出るのか。最終局面まで見通せない。【中山知子】