会社法違反などで起訴され、15億円の保釈保証金を払って保釈中だった前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告(65)が極秘に日本を出国し、国籍があるレバノンの首都ベイルートに滞在していることが31日、分かった。

ゴーン被告は「不正な日本の司法制度の人質ではなくなる」と声明を発表。4月にも予定されている初公判を前にした確信犯的な逃亡で、東京地裁は保釈を取り消す決定した。15億円は没収される。

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ゴーン被告のパスポートを保管している弁護団も寝耳に水の事態だった。19年12月25日に公判前整理手続きで会った弘中惇一郎弁護士は「寝耳に水でびっくりしている」と戸惑いながら話した。

出入国在留管理庁のデータベースにも出国記録は残っていない、極秘出国。レバノンの主要テレビMTV電子版は31日、ゴーン被告が楽器箱に隠れ、日本の地方空港から出国したと報じた。出国に際し、民間警備会社のようなグループの支援を受けたという。信ぴょう性は不明だが、レバノン紙アフバルアルヨウムも「警備会社を使い、箱に隠れて密出国した」と伝えた。

MTVによると、このグループはクリスマスディナーの音楽隊を装ってゴーン被告の滞在先に入り、楽器箱に隠して連れ出した。映画のような脱出劇で、日本の当局者は気付かなかったとした。

ただ、日本国内では航空機に持ち込む手荷物は通常エックス線の検査を通ることから、偽名パスポートを使った疑いも出ている。

欧米メディアによると、ゴーン被告はトルコからプライベートジェット機でベイルートに30日夜(日本時間31日午前6時半)到着した。国土交通省関西空港事務所によると、29日夜に関空からイスタンブールに向けて出発したプライベートジェット機があった。搭乗者は不明としている。

フランス紙ルモンド電子版は31日、ゴーン被告の日本からの出国は妻キャロルさんが計画したと報じた。使用したプライベートジェット機にはキャロルさんも同乗していたとしている。

レバノンのジュレイサティ国務相はゴーン被告はフランスのパスポートを所持し、合法的な入国だったとしている。

ゴーン被告は米国の広報担当者を通じ、「私は今、レバノンにいる」と声明を発表。東京地裁はゴーン被告の初公判は4月下旬に開く方向で調整していた。

ベイルート在住のゴーン被告の友人リカルド・カラム氏は「どのような手段であれ、ゴーン氏は新年を前に自由の身になった」とツイートした。ゴーン被告は声明で近く記者会見することをほのめかしている。

東京地裁は31日夜、東京地検からの請求を受け、ゴーン被告の保釈を取り消す決定をした。保釈金15億円を没収する。

◆保釈時VTR ゴーン被告は19年3月6日に東京拘置所から保釈された際、青の帽子に上下グレーの作業服、眼鏡にマスクで顔を覆う変装姿で現れた。弁護団の1人が知人に依頼して用意したもので、作業服専門店「ワークマン」製。10人近い刑務官に囲まれて歩いたが、報道陣も当初本人かどうか気づかなかった。移動の車もわざわざ、大型ワゴンではなく軽自動車ワゴン「スズキ・エブリィ」を用意する周到さだったが、トレードマークの太いまゆが見えていたことから本人とばれた経緯がある。4月に4度目の逮捕の後、再度保釈された際は、黒のスーツだった。

◆レバノン共和国 紀元前3000年の古代フェニキアからの歴史を持つ地中海に面した国。首都ベイルート。第1次世界大戦後にフランス統治に入り、1943年に独立。ベイルートは「中東のパリ」と呼ばれ、金融国際市場、リゾート地として栄える。75年に内戦が始まり、90年に終結。面積は岐阜県程度の大きさで1万452平方キロメートル。18もの宗派が国内に存在する多宗教国家。フランス統治下時代の32年から国勢調査が行われていない。その理由は当時、各宗派に政治権力が配分されており、政治的配慮からともいわれる。外務省HPによると、人口は推定約610万人(18年現在)だがブラジルを中心に世界中に離散しており、国外レバノン人の人口は本土を大幅に上回るとされる。