新型コロナウイルスの感染が広がる中、列島各地は11日、成人の日を迎えた。オンラインに切り替えたり中止や延期とする自治体が多い中、緊急事態宣言が発令されている東京都では、杉並区が23区で唯一、人が集まる形の「リアル成人式」を実施した。日刊スポーツは全式典終了後、田中良区長を、直撃。田中氏は、今回の式について「自分で考えて行動できるきっかけになれば」と話した。今年の新成人は約124万人。コロナ禍で異例ずくめの「節目の日」となった。

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杉並区は、東京23区で唯一、成人式を開催した。新成人を一社会人として信頼した上で、コロナ禍での行事として万全な感染対策を取った。式は例年の1日2回から4回へ分散。新成人は1席おきに着席し、1回の収容人数を1000人から半分の500人に減らし、密を避けた。

静かな雰囲気の中、式は各回とも約1時間、粛々と進んだ。君が代斉唱は行わず、音源を静かに聞いた。クラシックの演奏後には歓声ではなく拍手が起きた。

あいさつに立った田中区長は新成人を祝った上で、感染防止対策を講じながら準備を進めてきたと胸を張った。「杉並区は式を『強行』したと言われていますが、事実は開催予定の自治体に国や都が中止を迫り、ひとつ、またひとつと切り崩され、私だけが残ったのが真相です」と、23区で唯一の開催となった背景を明かした。

「結果的に、予定通り行うと表明していた区長の中で、皆さんに約束を果たせたのは、私1人だけになってしまいました」とも述べ「皆さんの門出にあたり、信頼のスタートとしたい。式典後は酒盛りを控えて家に帰ってください」と呼び掛けた。

夕方まで続いた4回の全式典終了後、田中区長は日刊スポーツの取材に応じ「大きな事故もなく終わって良かったと思います」と、胸をなで下ろした。式を開くにあたって、この数日は区に反対意見が多く寄せられたというが、開催を望む声も上がっていたという。「式に(新成人を)は無理やり呼んでいるわけではありません。今回の式が、自分で考えて自分で行動できるようになるきっかけになれば」と、期待を示した。

4回目の式典が終わった午後5時半すぎには、会場の外で一部の新成人が大声を出して道をふさいだり、仲間とじゃれ合う様子もみられた。警察も駆けつける騒ぎになったが、逮捕者が出るようなことはなかった。【沢田直人】

〇…杉並区の新成人からはさまざまな声が聞かれた。式のために京都から帰省したという女子大学生(20)は「東京に来るのは怖かったけど、久しぶりに会う友達の顔が見られて良かった。力を尽くして開催してくださった区の方々に感謝しています」と語った。将来モデルを目指しているという男性(20)は「今後は、両親へ恩返しをしていきたい」。グラフィックデザイナーの専門学校に通う男性(20)は「人生で一度しかないので良かった」とした上で「小学生の時に埋めたタイムカプセルを開ける予定が、中止に。いつか開けたいですね」と話していた。