東京・池袋の都道で19年4月に乗用車が暴走し、松永真菜さん(当時31)と長女莉子ちゃん(同3)が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪で在宅起訴された、旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)の第5回公判が1日、東京地裁で開かれた。裁判に先立ち、真菜さんの夫の松永拓也さん(34)は、所属する関東交通犯罪遺族の会(あいの会)の小沢樹里代表らとともに東京・霞が関の厚生労働省を訪問し、被害者休暇制度を義務化するよう、要望書を提出した。

松永さんは第5回公判後に開いた会見の中で、事故発生後、勤務する会社の忌引3日間と有給休暇などを併せて1カ月間、会社を休んだことが、その後にとって大きかったと振り返った。

「妻と娘が亡くなった日以降、ショックのあまり仕事に行けなかった。福利厚生の休暇制度を組み合わせて何とか休むことができたが、その間、葬儀、役所回りをしながら2人の命がなくなってしまった苦しみ、悲しみに対して苦悩し、命を絶つことも考えた。その(休暇の)1カ月で、自分がこの先、どうやって生きていけばいいんだと考えることができた。今、考えると、この1カ月がなかったら、今の私はなかった」

松永さんは、都が犯罪被害者に対して行ったアンケート調査の結果を例に挙げた。それによると、96%が生活の変化を余儀なくされ、52%が休職、36%が犯罪被害に遭った後、仕事を辞めているという。多くの犯罪被害者が心や体の回復、葬儀、被害者参加制度を使っての刑事裁判などで有給休暇を消化しているが、結果的に心理的、物理的側面から、会社を辞めてしまう人が少なくない現実が浮き彫りとなっており、性犯罪では、その割合は増えるという。

データを紹介した上で、松永さんは「事故当時、32歳の私が退職して生きていけるのかという恐怖心も感じていた」と語った。その上で「厚労省はホームページで必要性を事業者に発信してくださっているが、あくまでお願いベースで、実質的な法的効力を持つものではない。多くの企業で犯罪被害者の休暇制度は、採り入れられていないのが実態。実効力のあるものにして欲しいと思っています」と法改正を強く希望した。その上で本音を吐露した。

「会社員として私の体験を、他の被害者の方に味わって欲しくない。犯罪被害者を特別扱いしてくれというわけではない。犯罪被害者が、社会とのつながりを維持しつつ、愛する人の死や自分の体と心の傷、捜査機関への協力、裁判への参加…それらに向き合うための時間を、ぜひいただきたい。犯罪被害者は好きでこの立場になるわけではない。今後も、誰しもがなり得るからこそ、必要な法改正だと思う。今回の要望が法改正につながり、未来の犯罪被害者の心と体の回復につながっていくことを願っています」

松永さんは今後について「将来的には厚労相と(実現するとしたら)法改正になるので法相と、ぜひお会いして直接、この思いを伝えさせていただければ」と力を込めた。厚労省の反応について、弁護人の高橋正人弁護士は「前向きなニュアンスを感じた。厚労相と会わせていただけるんじゃないかという反応があった」と語った。小沢代表も「さまざまな部局の方がいらっしゃった。向き合う体制ができているのかなと。ただ単に聞くだけという姿勢ではなく、何らかの形でお話しさせて頂きたいというお話もいただけた。しっかり要望を出していきたい」と語った。

松永さんは、被害者参加制度を使っての裁判に参加するに当たって、準備も含めて有給休暇を消化しており、昨年は残り0・5日と、ほとんど残らなかったという。小沢代表は「松永さんの有給休暇が減らないように、裁判に併せて、と思っています」と早期の法制化が実現するよう、行動を続けていく考えを示した。