緊急事態宣言を、しばし忘れさせる心地のよいニュースにふれた。2021年度日本記者クラブ賞を朝日新聞編集委員の大久保真紀さんが受賞した。

この賞は、スクープというより長年にわたる地道な記者活動に贈られるもので、大久保さんは中国残留邦人や鹿児島県志布志の選挙違反冤罪(えんざい)事件、性暴力被害者への取材が高く評価された。

大久保さんと初めてお目にかかったのは、私の事務所が長らく関わってきた厚労省主催の「中国残留邦人等への理解を深めるシンポジウム」2014年横浜会場だった。

駆け出しの支局記者から30年近く、この問題を取材してきた大久保さんに「パネリストとしてぜひ」とお願いしたところ、快く引き受けてくださった。

残留婦人、孤児をテーマにしたお芝居やパネルディスカッション。最後にみんなで「里の秋」を合唱して大久保さんがステージを下りると、待ちかねたように二重三重の輪ができた。

久しぶりの再会に涙ぐむ人。最近、困っていることをまくし立てる人。大久保さんは母親ほどの年齢の婦人に顔を寄せ、30分たっても輪は解けそうにない。その姿に私は記者という仕事の、もう一つの大事な側面を見せられた思いがしたのだった。

大久保さんも「受賞が決まって」の一文で、自身の記事は新聞の本流とは違う道としつつ、〈理不尽な社会の中で、懸命に生きている人たちに吸いよせられるように、取材を続けてきた〉としている。そして、それを書き続けることは〈知ってしまった者の責任〉と、きっぱりと言い切る。

5月の青空の下。一陣のさわやかな風が吹き抜けていく思いがする。

◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」ABCテレビ「キャスト」東海テレビ「ニュースOne」などに出演中。