将棋の史上最年少タイトルホルダー藤井聡太棋聖(王位=18)が、タイトル初防衛を果たした。3日、静岡県沼津市の「沼津御用邸東附属邸第1学問所」で行われた「第92期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負第3局」で午後7時14分、100手で挑戦者の渡辺明名人(棋王・王将=37)を下した。これで3連勝として棋聖を防衛した。18歳11カ月での達成は史上最年少。同時にタイトル獲得通算3期という規定を満たし、やはり最年少で同日九段に昇段した。渡辺はタイトル戦登場39回目で初めてストレート負けした。

   ◇   ◇   ◇

令和の将棋界のプリンスは、勝ちを確信していた。盤面を見つめ、フーッと息を吐き出すと、駒台に手をやり、持ち駒の桂をつかむ。軽やかな手つきで後手3六桂。天を仰いだ渡辺が投了を告げた瞬間、史上最年少でのタイトル初防衛とが九段昇段が決まった。最後の逆転劇に、「ずっと苦しいのかなと思っていました。後手7一飛(96手目)と引いて、自玉がうまく詰まされなければ勝てると思っていました」。激戦の余韻が漂うなか、ホッとした表情を見せた。

午前9時から始まった対局は、今年に入って王将、棋王、名人と保持するタイトルすべてを防衛し、棋聖戦にも挑戦と、8大タイトル戦の前半「皆勤賞」の渡辺が矢倉に誘導した。駒が直接ぶつかり合うだけでなく、81マスの盤のあちらこちらに地雷原が潜んでいる。その伏線を時間をかけて読んで、展開を考えなければならなかった。

時間の配分、状況や形勢の判断など、かつて自分が課題に挙げてきた「将棋の総合力」が問われた。しかも、中盤は渡辺に押され気味。時間を削られた。62手目の後手3四桂を指した時点では、各4時間の持ち時間のうち、渡辺が残り61分あったのに対し、わずか10分しかなかった。そこから、乱戦に持ち込み、局面をひっくり返した。「自分としては、ぶつかっていくという気持ちで指すことができた」と、シリーズを振り返った。

最年少での初防衛も九段昇段も意識していなかった。前日2日に現地入り後の会見で、「意識せず、盤上に集中して1局指せれば」と話した通りだった。

今月19日に19歳となる。18歳11カ月と誕生日前に初防衛できた。これまでの記録は、屋敷伸之現九段が91年1月に達成した19歳7日。3~4局(18日、名古屋市)と連敗し、最終第5局(29日、新潟市)で勝てば19歳10日での防衛で、屋敷の記録に3日及ばなかった。

これまでの最高段位の九段昇段記録は、渡辺が05年11月に竜王2期獲得の規定で達成した21歳7カ月。こちらは大きく更新した。

「将棋界にはタイトルを取って防衛して一人前という言葉がある。結果を出せて良かった。九段は最高位。光栄なこと」と喜びをかみしめた。

1月末に高校(愛知・名古屋大学教育学部付属)を自主退学した。卒業せず、将棋で生きる道を選んで迎えた初防衛戦で結果を出した。次に目指すのは、豊島将之竜王(叡王=31)の挑戦を受ける王位戦7盤勝負での初防衛と、豊島に挑戦する叡王戦5盤勝負でのタイトル奪取による史上最年少3冠だ。【赤塚辰浩】

◆第92期棋聖戦VTR

第1局 ◇6月6日◇千葉県木更津市「龍宮城スポホテル三日月」 4カ月前の朝日杯決勝と同じ相掛かりの進行で、駒を取り合う激しい展開に。66手目後手3三桂と誰もが気付かなかった一手から、後手4二玉(70手目)と早逃げで危機を回避すると、鮮やかな指し回しで初防衛に向け、好発進した。

第2局 ◇6月18日◇兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」 1局目と同じ相掛かりでも、お互いにじっくり戦機をうかがう。65手目の先手6八金右→67手目先手7七金右で急所だった8七の地点を守ると、確実にポイントを挙げて連勝。持ち時間が残り5分となった75手目から171手の終局まで最善手を連発し、防衛に王手をかけた。

◆藤井聡太(ふじい・そうた) 2002年(平14)7月19日、愛知県瀬戸市生まれ。5歳で祖母から将棋を教わり、地元の教室に通う。杉本昌隆八段門下。16年10月、14歳2カ月の史上最年少でプロ(四段)に。史上5人目の中学生棋士。17年6月、デビューから負けなしの29連勝で、将棋界の連勝新記録を達成。18年2月、朝日杯で史上最年少の公式戦初制覇。翌年2月、朝日杯連覇。20年7月、17歳11カ月の史上最年少で初タイトルとなる棋聖を獲得。翌月王位も奪取し、今年棋聖を初めて防衛。タイトル通算3期獲得で九段に昇段。20年の獲得賞金と対局料は4554万円で4位。