自民党の菅義偉前首相(72)が衆院選(31日投開票)公示日の19日、地元・神奈川2区の3カ所で行った出陣式に、同氏の素顔に迫り、日本初の現役首相を描いたドキュメンタリー映画として話題となった「パンケーキを毒見する」を手掛けた、内山雄人監督が取材に訪れた。

内山監督は、菅氏がこの日、最初に行った上永谷駅前での港南区出陣式から、映画のポスターとパンフレットを手にスタッフとともに駆けつけ、カメラを回した。同氏が有権者の間を回って、グータッチなどして支援を訴えて回る中、肉薄して質問を続けた。

最後に行った藤棚商店街で開いた西区出陣式では、フリーアナウンサー小川彩佳(36)が「もう少し、総理を続けたかった思いは?」と聞き、菅氏が「いや、ないです」と即答して車に乗り込もうとすると「何で、総理を辞めなければ、いけなかったんですかね?」と質問を投げかけた。ただ、菅氏はひと言も答えず、その場を後にした。

内山監督は「本当に、悔しい」と繰り返した。港南区出陣式の際、菅氏に映画のポスターを見せたところ「ハハハハ」と笑われたという。次に行われた横浜市営地下鉄弘明寺駅前での南区出陣式の際も、視線は合ったものの多数のSPに阻まれ、踏み込みきれなかった。西区出陣式で、ついに質問することが出来たものの、返答はなく「こんなの取材のうちに入っていない」と唇をかんだ。

その裏には、菅氏が主演扱いながら取材に応じず、過去の資料映像や国会での答弁などの映像を使用して作り上げた「パンケーキを毒見する」の製作事情がある。同作は20年9月に首相に就任した菅氏が、日本学術会議の新会員に6人を任命しなかった問題に関して記者会見での説明を求められながら、同10月3日に都内の有名パンケーキ店に番記者数十人を集め、オフレコの懇談会をしたことがタイトルになっている。製作陣は、同氏に近い自民党議員達が結成した「ガネーシャの会」所属の若手議員や、同氏がかつて““影の市長”の異名を取った横浜市議会や神奈川県議会の議員らにも取材を試みたが、全て拒否された経緯がある。

内山監督は、この日の取材の意図について「(映画の製作時、菅氏は)トップにいましたからディフェンスは強かった。こういうタイミングなら、撮れると思った」と説明。菅氏が3カ所で行った出陣式を撮影した映像の今後について「次の作品に関わるかも知れないし…まだ全然、分からない。(続編を作ったとしても)菅さんは主役にはならないだろうと思うんですよ」と苦笑交じりで語った。