ロシアのウクライナ侵攻を巡り、両国の仲介者となっているロシア人富豪ロマン・アブラモビッチ氏が、停戦交渉を妨害するためロシアの強硬派から毒を盛られた可能性があることが分かった。米CNNやウォールストリート・ジャーナル紙などが伝えている。

2003年からプレミアリーグ、チェルシーのオーナーを務めていたアブラモビッチ氏は、ロシアのプーチン大統領と親しい仲にあるオリガルヒ(新興財閥)の一人で、侵攻を受けて西側諸国の制裁対象者となり、資産を凍結されている。

報道によると、今月初めにウクライナの首都キエフで開かれた両国の停戦交渉に参加したアブラモビッチ氏とウクライナの平和交渉代表の少なくとも2人が、協議後に目の充血や目の痛み、顔や手の皮膚の剥離など中毒を疑わせる症状を訴えたという。その後回復し、全員命に別条はないと伝えられているが、3人はチョコレートと水を口にして数時間後に症状が出たため、毒を盛られた可能性を主張している。

調査をした専門家は、未特定の生物化学兵器による中毒の可能性が高いと結論付けたというが、毒の種類や量から察するに生命を脅かすほどのものではなかったことから単なる警告だったとの見方を示している。一方、ウクライナ政府は、「偽情報」としてこの報告は事実ではないと述べている。

アブラモビッチ氏は、和平交渉の初期の役割を果たしていたとロシア側は説明しており、ロシアの代表団の一員ではないという。両国による次回の停戦交渉は、29日にトルコの最大都市イスタンブールで行われる見通しとなっている。

ロシアでは過去に反プーチン政権運動の指導者が毒入りのお茶を飲まされたり、元スパイの親子の毒殺未遂事件なども起きている。(ロサンゼルス=千歳香奈子通信員)