エリザベス女王追悼の声が日本でも広がる中、75年の初来日で女王をもてなし、パレードのスタート地にもなった帝国ホテル(東京都千代田区)では、女王が食し、名前を冠することを許したメニューが受け継がれている。「レーンヌ・エリザベス」。女王をしのび、この一品を味わいに訪れる客が相次いでいる。

75年5月9日、帝国ホテル「富士の間」で日英協会主催の午餐会が開かれた。ホテルの広報担当者によると、当時の料理長の村上信夫氏が、女王は魚介類が好みという情報を知り、海老と舌平目を使ったグラタンを考案。午餐会は2時間半以上に及んだが、女王は何一つ残さずに食べた。厨房(ちゅうぼう)には女王から「日本は英国と同じように、魚のおいしい国ですね」とのメッセージが届けられた。

女王のためのグラタンは、女王に許可をもらって「レーンヌ・エリザベス」と名付けられた。帝国ホテル内のフランス料理店「ラ ブラスリー」では40年以上経った現在も愛され続けている。

75年の来日時、女王は迎賓館に宿泊し、帝国ホテルのスタッフが接遇を担当した。女王は帰国する際に客室係の女性スタッフと料理を総括していた男性スタッフを呼び、仕事ぶりをたたえた。女性には英国の紋章が入った銀色のくし、男性には同じく紋章が入った革の財布をプレゼントした。女王は男性に「この中身は社長に入れてもらって下さいね」とユーモアを交えて話されたという。

帝国ホテルは1日~10月31日までエリザベス女王陛下即位70周年を記念した「英国フェア」を開催している。英国王室のシンボルといえるティアラをモチーフにしたケーキ「45°」を販売している。【沢田直人】

○…「レーンヌ・エリザベス」の名で親しまれている「海老と舌平目のグラタン“エリザベス女王”風」(税込み4600円、サービス料別)を記者も実際に食べてみた。レーンヌ・エリザベスは、白身魚のムースが塗られた舌平目を、海老に巻き付けて蒸し、卵黄と上澄みのバターを合わせたオランデーズソースをかけてオーブンで焼き色を付けたもの。海老の頭と香味野菜を炒めて、トマトとワインを煮詰めたというニューバーグソースが添えられる。

グラタンと言えば、ホワイトソースにチーズが乗っているイメージだったが、焼き色の付いた黄色いオランデーズソースはふんわり柔らかな食感。オレンジ色のニューバーグソースは海老の香りとトマトの酸味が合わさっている。柔らかな舌平目でくるまれた絶妙な火加減のエビは歯ごたえも残っていて、口の中で1つになる食感だ。グラタンの下にあるほうれん草のバターソテーと、付け合わせのサクサクのパイもおいしい。慣れないフランス料理に最初は緊張もしたが、食べ始めると、あっと言う間で、素敵なひとときを味わえた。