各種世論調査で「反対」が強まる中、安倍晋三元首相の国葬が27日午後、東京の日本武道館で営まれた。葬儀委員長の岸田文雄首相らが弔辞を読み、友人代表の菅義偉前首相が「あらゆる苦楽を共にした7年8カ月。本当に幸せでした」と声を詰まらせながら述べると、昭恵夫人が涙する場面も。政府によると、ハリス米副大統領ら国内外から4183人が参列した。67年の吉田茂元首相以来、55年ぶりの首相経験者の国葬だったが、一般献花に長い列ができる一方、各地で抗議デモが行われ、警察が最大約2万人規模の厳戒態勢を敷く中での葬儀となった。

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厳戒下となった都心で、追悼と抗議が渦巻いた。会場の日本武道館に近い九段坂公園の一般向け献花台には朝から多くの人が詰めかけ、午前10時予定だった開始が約30分早められた。夕方まで数キロに渡って長蛇の列が続いて数時間待ちとなり、午後7時半ごろにようやく終了した。一方で近くの公園、国会議事堂前のほか、大阪、名古屋など各地で抗議の集会やデモが終日相次いだ。武道館近くでは、賛成派と反対派が拡声器で主張を応酬するなど、緊迫した場面もあった。最近の各種世論調査では「反対」が過半数。その現実を物語る分断が広がる中で、国葬は実行された。

午後1時半ごろ、東京都渋谷区の安倍元首相宅から、遺骨を抱えた着物の喪服姿の昭恵夫人が、自衛隊の儀仗(ぎじょう)隊に見送られて出発。弔旗をつけた車は防衛省に立ち寄り、1時55分に会場に到着。奏楽と19発の弔砲が響く中、岸田首相と昭恵さんが入場。遺骨は、富士山を生花でかたどった式壇に衆院議員バッジなどと安置された。

2時10分ごろ、松野博一官房長官が開式の辞を述べて始まった。参列した4183人は全員が白マスク。国歌演奏、1分間の黙とうに続き、政府がまとめた安倍氏の歩みのVTRが約8分間、大型スクリーンに流された。映像には、安倍氏の「花は咲く」のピアノ演奏が使われていた。

続いて、岸田氏、衆参両院議長、最高裁長官が追悼の辞を述べた。岸田氏は「いちずな誠の人、熱い情けの人であって、友人を大切にし、昭恵夫人を深く愛した良き夫でもあったあなたのことを、いつまでも、懐かしく思い出すだろう」「あなたが敷いた土台の上に、持続的で、全ての人が輝く包摂的な日本を、地域を、世界をつくっていく」などと話した。

友人代表の菅前首相は「悲しみと怒りを交互に感じながら、この日を迎えました」などと切り出し、長い交流を振り返った。安倍氏が首相を一度退いた負い目から12年の党総裁選出馬を迷っていた時、一緒に焼き鳥店に行き「一生懸命、口説きました。3時間後に、首を縦に振ってくれた」とのエピソードも披露。「官邸で共に過ごし、あらゆる苦楽を共にした7年8カ月。私は本当に幸せでした」などと時に声を震わせながら語りかけると、昭恵さんも目元を押さえていた。

天皇皇后両陛下と上皇ご夫妻の使者が拝礼し、秋篠宮ご夫妻、次女佳子さまら皇族7人も供花。岸田氏、昭恵さんら遺族の献花が続いた。ハリス米副大統領ら首脳級50人程度を含む、210超の国や地域、国際機関からの計700人程度も献花。国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長の姿もあった。献花は午後6時ごろまで続いた。

国葬をめぐっては、法的根拠があいまい、公表だけでも16億6000万円に上る国費支出、安倍氏と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係も未調査、安倍氏の評価が定まっておらず歴代首相との違いも明確でないなど、さまざまな疑問、異論、批判が噴出している。葬儀は終わったが、宿題は残っている。