藤井聡太竜王(王位・叡王・棋王・王将・棋聖=20)が史上最年少での名人獲得と7冠に向け、好発進した。将棋の第81期名人戦7番勝負第1局が6日、東京都文京区の「ホテル椿山荘東京」で行われた。5日午前9時からの2日制で始まった対局は、6日午後8時39分、110手で先手の渡辺明名人(38)を下し、先勝。初日の封じ手約1時間前の軽い仕掛けから攻めをつないで押し切った。第2局は今月27、28日、静岡市「浮月楼」で行われる。

    ◇    ◇    ◇

「名人をこす」戦いの第1ラウンドを藤井が制した。5日の封じ手約1時間前、軽い仕掛けから攻撃を開始した。6~9筋に狙いを絞り、堅い守りの渡辺陣を突き崩す。激しい中盤のねじり合いから抜け出した。「どう指すのか難しかった。あまり自信のない展開でした。終盤はこちらの玉がよりづらい形で、それを生かすことができました」。終局後、ホッとした様子を見せた。

初登場でも、いつものタイトル戦と変わらなかった。渡辺の秘策というべき角道を止めた「雁木(がんぎ)模様」の序盤にも、しっかり時間を使って考える。持ち時間9時間と、最長の名人戦を楽しんでいるようだった。

1912年(大元)創設と、将棋界で最も伝統と格式のある名人戦の歴史の中で、木村義雄以下、塚田正夫、大山康晴、升田幸三、中原誠、加藤一二三、谷川浩司、米長邦雄、羽生善治、佐藤康光、丸山忠久、森内俊之、佐藤天彦、豊島将之、渡辺まで輩出したのはわずか15人。藤井が16人目に挑む。「いいスタートが切れました」と話した。

対戦相手の渡辺からはこれまでに棋聖、王将、棋王と奪取。同時に数々の史上最年少記録を更新してきた。2020年(令2)7月、棋聖戦で17歳11カ月での初タイトル獲得、翌年7月には棋聖初防衛、22年2月の王将戦での5冠、今年3月の棋王戦での6冠。今回はさらに大きな偉業がかかる。記録は特に意識していない。自然体で盤に向かう。

次の対局場となる静岡県ではタイトル戦負けなしの5連勝中。21年には沼津市で棋聖初防衛、22年9月に牧之原市で王位戦3連覇、同年10月は富士宮市の竜王戦第3局で広瀬章人八段に逆転勝ち、王将戦は22年1月に渡辺、今年1月に羽生からそれぞれ勝利を挙げている。好相性の場所で、「天下統一」に向けて白星を積み上げる。【赤塚辰浩】

◆名人戦 1912年(大元)に創設された将棋界で最も歴史が古いタイトル戦。名人を頂点に、その挑戦権を得られるA級(22年度の場合、在籍10人)以下、B級1組(同13人)、B級2組(同26人)、C級1組(同33人)、C級2組(同56人)の5クラスの順位戦で構成される。プロデビューした棋士はC2からスタートし、1年につき1クラス昇級できる。挑戦するまで最速でも5年かかる。そこが、1年目から活躍次第で挑戦権を獲得できるほかの7つのタイトル(竜王・王位・叡王・王座・棋王・王将・棋聖)戦との大きな違い。序列1位の竜王は、将棋界最高の優勝賞金4400万円という「実」の部分が強いが、名人は伝統、格式という点で最も価値が高い。

○…歴代名人は獲得順に木村義雄以下、塚田正夫、大山康晴、升田幸三、中原誠、加藤一二三、谷川浩司、米長邦雄、羽生善治、佐藤康光、丸山忠久、森内俊之、佐藤天彦、豊島将之、渡辺明と15人。藤井が16人目を目指す。物故者、引退を含めて、「末の名人」と期待された腕の覚えのある約400人のプロ棋士が輩出されたなかで、名人になれる確率は約3・8%しかない。

【第81期名人戦7番勝負第2局以降の日程】

◆第2局 4月27・28日、静岡市「浮月楼」

◆第3局 5月13・14日、大阪府高槻市「高槻城公園芸術文化劇場」

◆第4局 5月21・22日、福岡県飯塚市「麻生大浦荘」

◆第5局 5月31日・6月1日、長野県高山村「緑霞山宿 藤井荘」

◆第6局 6月13・14日、山梨県甲府市「常磐ホテル」

◆第7局 6月27・28日、山形県天童市「天童ホテル」