能登半島地震を受け、石川県を代表する温泉街も甚大な被害を受けた。

開湯1200年の歴史がある石川県七尾市の和倉温泉。「おもてなし日本一」で知られる「加賀屋」を含む、22の旅館全てが休業に追い込まれた。16日に地震後初めて温泉が再び湧き出したことを確認するも、一帯の断水はいまだに続き、復旧作業は困難を極める。

激震が、正月休みで訪れた宿泊客のだんらんを奪った。元日、加賀屋では約230の客室がほぼ満室状態だった。広報担当の張原滋さんは「事務所で作業していましたが、立っていられない状況でした」と振り返る。エレベーターが止まったため、従業員が20階まで階段で上がり宿泊客の安全を確認してまわった。建物外の駐車場に宿泊客を一時避難させた直後には、津波警報が発令。徒歩で10分ほどの高台にある和倉小学校に誘導した。張原さんは「幸いにもけが人はいなくて、本当に良かった。ただ、良かったという言葉を使って良いか、分からない。まだ避難をされている方もいるし、亡くなられた方もいますから…」と言葉を詰まらせた。

旅館の割れたエントランスの敷石が、被害の大きさを物語る。張原さんによると、地震の影響で壁にひびが入り、室内のタイルがはがれおちた。16日にはようやく「源泉が戻った」との情報が入ったが、「建物の被害の全容が分かっていないので、まずはその前の段階に取り組んでいる状況です」と話した。【沢田直人】

◆おもてなし日本一 加賀屋は「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(旅行新聞社主催)で通算40回総合1位に輝くなど、「おもてなし日本一」の旅館として温泉ファンらに人気が高い。

○…和倉温泉観光協会の宮西直樹事務局長によると、一部旅館ではスプリンクラーが作動するなどして、倒れた家具や貯蔵品が水浸しになったという。断水が続く生活に「水が来ないので物を洗うのにも不自由。旅館のトイレも使えない状況です」と語った。16日まで設備の不具合で止まっていた源泉については「全てではないけど一部戻った」と、ほっとした様子。今後、旅館につなぐ配管の点検作業が進められる予定という。

和倉温泉は23年5月の地震でも影響を受け、旅館は予約のキャンセルが相次いだ。宮西さんは「コロナが落ち着いて観光地として回復傾向にあった。昨年に続いて、1日でこんなことになってしまい途方に暮れるしかない」と嘆いた。

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