ワールドクラスのエスコートだ。ライアン・ムーア騎手(39)騎乗の3番人気ヴェラアズール(牡5、渡辺)が3連勝で、G1初参戦Vを決めた。

芝転向後は6戦連続で最速上がり(タイ)をマーク。直線で前がふさがる大ピンチをイン強襲で抜け出した。勝ち時計は2分23秒7。開業7年目の渡辺薫彦師(47)もうれしいG1初制覇となった。

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絶体絶命。誰もがそう思った。ただ1人、ムーア騎手を除いては。ヴェラアズールが馬群でもがく。前へ進軍しようにも、外へ切り替えようにも進路がない。残すは、あと200メートル。活路は内だった。ムーア騎手は「最後に前が開いた時に勝ったな、と実感した」と勝機を見いだした。左隣にいるハーツイストワールが手応えを失うのを見逃さず、馬体をねじ込ませる。加速は一瞬。磨きあげた末脚で頂点に立った。

自分は仕事を遂行しただけ。ムーア騎手はそう言わんばかりに、クールな姿勢を貫いた。検量室前で待ち構えた厩舎関係者に、右手人さし指と中指を眉毛にかざすおなじみの敬礼ポーズでほほ笑みかける。喜びをさく裂させる周囲をよそに、インタビューの席では“アイスマン”がそこにいた。「私もジャパンCを何度も経験していて、何を馬に期待していいのか経験を積んでいる」。13年ジェンティルドンナ以来、9年ぶり2度目の勝利は、外国人騎手最多となる14回目の騎乗。世界中の大舞台で戦う男に焦りが生まれるはずなどなかった。

だから、直線は信じて待った。今回で芝転向後、6戦連続で上がり3ハロンは最速。映像を見ていたよりも、父エイシンフラッシュ譲りの切れが上回った。「またがったときから感触が良かった。とても素質がある、と。私としても満足する優秀な馬。期待以上の脚がある。乗れたことを幸運に思う」。テン乗りの相棒は育成時代に骨瘤や骨折に見舞われ、脚元の不安が消えるまでダートで雌伏の時を過ごした馬。「ジャパンCは平地の最高峰のレース。これからも期待ができる」。華麗なる転身に、クールな男も最大限の賛辞を送った。

ほぼ3年ぶりとなる短期免許での集中騎乗。ムーア騎手ここにありを示した金星だ。「2年間日本に来られず、またこの地に戻ってこられたことをうれしく思う。私がここにいられるのはサポートしてくれるみなさんがいるから」と感謝の思いを口にする。名手には結果が常に伴う。仕事人が世界有数の腕前を見せつけた。【松田直樹】

◆ヴェラアズール ▽父 エイシンフラッシュ▽母 ヴェラブランカ(クロフネ)▽牡5▽馬主 (有)キャロットファーム▽調教師 渡辺薫彦(栗東)▽生産者 (有)社台コーポレーション白老ファーム(北海道白老町)▽戦績 22戦6勝▽総収得賞金 5億4968万円▽主な勝ち鞍 22年京都大賞典(G2)▽馬名の由来 青い帆(西)。母名より連想