ジンクスを打ち破った。オーストラリア出身の名手ダミアン・レーン騎手(29)が、タスティエーラ(牡、堀)で勝ち、4度目のダービー騎乗で初制覇を果たした。無敗の皐月賞馬ソールオリエンスを首差しのぎ、勝ちタイムは2分25秒2。

テン乗りでの制覇は1954年(昭29)の岩下密政(ゴールデンウエーブ)以来、69年ぶり4度目。短期免許騎手の勝利は03年M・デムーロ騎手(ネオユニヴァース)以来、20年ぶり2人目となった。

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「69」も、ただの数字にしか過ぎなかった。ゴール直前、レーン騎手がタスティエーラを右腕でぐいっと押し出す。左前脚を落鉄しながらソールオリエンスの猛追をわずかにしのぎ切り、首を横に振って喜んだ。「ベリースペシャル。本当に特別な勝利です」。初コンビでは69年ぶりの制覇。大歓声が巻き起こるスタンドへ、第90代ダービー馬の上から左手を上げて応えた。

テン乗りは勝てない-。レース後にジンクスの存在を問われても「ノー。正直知らなかった。もし知っていてもジンクスは信じていないし、気にならないですね」と意に介さない。騎乗決定後、3週続けて追い切りにまたがった。堀師と連携を取り、パートナーの特徴を感じ取った。「先頭に立つと耳を立てて集中力が落ちる特性がある。調教でもシミュレーションができた」。短期間で濃密に息を合わせ、手の内に入れた。

だからこそ、勝ち切れた。後続を離して逃げた馬が前半1000メートル通過1分0秒4。比較的遅い流れをソールオリエンスの前の4番手で運んだ。直線残り400メートルから促し、残り250メートルでステッキを抜いた。「100%の力を出し切ってくれた。プラン通りにいきました」。短期免許を取得して初来日した19年はサートゥルナーリアで4着。20年はサリオスでコントレイルの2着。「またチャンスのある馬でやっと成功できてありがたい」と経験を生かした。

愛も力に変えた。レース後、1月に結婚し、先週末に来日した愛妻ボニーさんとハグやキスで喜びを分かち合った。「特別な勝利を挙げられた瞬間にいてくれてよかったです」と言えば、ボニーさんも「非常に興奮しました。私のパワーのおかげだねって言い合いました」と愛くるしい笑顔を見せた。

未来は広がる。タスティエーラの強さ、適性に「乗りやすい馬でプロフェッショナルな性格。2400メートル以上も無理ではないが、まだ決めつけるのは早いと思う」と今後の成長に期待を込めた。歴史の扉を1つ開けた人馬が、新たな歴史を築き上げる。【桑原幹久】

◆テン乗り その馬に騎手が初めて騎乗すること。

◆タスティエーラ ▽父 サトノクラウン▽母 パルティトゥーラ(マンハッタンカフェ)▽牡3▽馬主 (有)キャロットファーム▽調教師 堀宣行(美浦)▽生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▽戦績 5戦3勝▽ 総収得賞金4億8232万9000円▽ 主な勝ち鞍 23年弥生賞(G2)▽馬名の由来 (楽器の)キーボード(伊)。母名より連想