史上初の快挙だ! 3冠馬対決にわいたジャパンCは、ジェンティルドンナ(牝3、石坂)がオルフェーヴルとの激闘を鼻差制して、3歳牝馬として初めて栄冠を手にした。岩田康誠騎手(38=フリー)は狭いところに突っ込む厳しい騎乗で、史上最多に並ぶ年間G1・6勝目。ジェンティルは年度代表馬に1歩前進した。来年、このコンビは海外に飛び出し、日本馬初の凱旋門賞制覇を目指す。

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オルフェーヴルを倒したのは、何と3歳牝馬だった。ゴール前、同じ勝負服の2頭が激しくたたき合う。ジェンティルドンナとオルフェーヴルだ。体をぶつけ合い、はじかれ、はじき返す。岩田と池添、両騎手のプライドと意地がぶつかり合う。絶対に譲らない。先着は許さない。思いは同じだった。寒空に響き渡る11万人の声援。200メートルを超すたたき合いを制したのは牝馬の方だ。鼻差の勝因は、もはや執念しかない。

引き揚げてきた岩田は喜びを爆発させることはなく、神妙な面持ちだった。たたき合った際、自分が審議対象にかかったことを知っていた。約20分に及ぶ長い審議の後で決着をみると、ふうっと息を吐いた。「全てを出せた結果オルフェに勝てた。もっと僕が上手にエスコートすれば良かったが、オルフェに3歳牝馬が勝ったということは、ジェンティルドンナを褒めてやってください」。人間でいうなら女子高生が、ダルビッシュの球を打ち返してスタンドインさせるようなもの。岩田自身は2日間の騎乗停止になってしまったが、火花散る攻防戦で心が折れなかったパートナーのシンの強さをたたえた。

内の先行馬が残りやすい馬場状態。世界の強豪や名手がそろうタイトなレースが予想される中で、外枠は決して有利とは言えない。岩田の心は決まった。「腹をくくって、ある程度の位置につけよう」。好スタートを切ると、内ラチ沿い目掛けて外から左斜めに向かって進んだ。道中は2、3番手。この思い切りの良さがG1年間6勝を生んだ。

「馬を信じる」というこのシンプルな考え方は、昨年のJCであらためて学んだ。「ブエナビスタで勝った時、冷静に乗ればうまくいくと教えられた。馬から『私を信じて』って言われた気がした。あれでひと回りもふた回りも成長できた」。その1走前の天皇賞では相棒を信じ切れずに敗れていた。当時の思いが心に残り、岩田の進化を後押ししている。

戦前から「ブエナビスタやウオッカなどに匹敵するような器だと思う」と話してきた。最強馬オルフェーヴルをねじ伏せた今日の勝利がそれを証明し、人馬が世界へ挑む足掛かりとなった。これで年度代表馬の最有力候補にも浮上。史上最強の牝馬伝説が今日、幕を開けた。【和田美保】

◆ジェンティルドンナ ▽父 ディープインパクト▽母 ドナブリーニ(ベルトリーニ)▽牝3▽馬主 (有)サンデーレーシング▽調教師 石坂正(栗東)▽生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▽戦績 9戦7勝▽総収得賞金 6億8953万8000円▽主な重賞勝ち 12年シンザン記念(G3)桜花賞(G1)オークス(G1)ローズS(G2)秋華賞(G1)▽馬名の由来 イタリア語で貴婦人

(2012年11月26日付 日刊スポーツ紙面から)※表記は当時