高校時代まで過ごした故郷岡山をロードバイクで初めて走った。コースは鷲羽山(わしゅうざん)から瀬戸内の海岸線を走り、「日本のエーゲ海」牛窓を目指すというもの。子供のころに訪れた懐かしい場所も通って思い出に浸りつつ、自転車で走ることで新しい風景にも出会えたライドだった。
今回参考にしたのはオダックス・ジャパン岡山(AJ岡山)の瀬戸内海・オリーブ園200キロなどのコース。これを基本にしながら一部をショートカットしたりアレンジしてみた。行ったことのない土地を走る時はブルベのルートがやはり安心安全。きつい上りも待っているだろうが、楽しい事もきっとあるはずだ。
岡山駅西口付近を午前5時前に出発。まずはJR瀬戸大橋線に沿うように西南方向へと向かい、岡山ブルベの多くの発着点となっていた早島町役場近くの「ゆるびの舎(や)」を目指した。まだ夜が明けず、暗い中を多少迷ったが40分ほどで到着。ここからはブルベコースの通りに川沿いの県道を南下する。車の通行も少なく周囲は田園地帯で視界も開け気持ちのいい道だった。
途中でブルベコースから離脱し、左折してJR茶屋町駅に出ると「鬼」がいた。江戸時代に起こった民俗文化で、一時衰退したが昭和50年に「保存会」が結成され毎年11月ごろに「鬼まつり」が行われているそうだ。ただ、昨年はコロナ禍で中止になっている。
もちろん、ここに来た目的は偶然に知った「鬼」ではない。下津井電鉄の廃線跡の自転車道を走ってみたかったのだ。下津井電鉄は同社ホームページによると大正2年(1913年)に味野(あじの)町-茶屋町間の14・5キロが開通。翌年に味野町から下津井間の6・5キロが開通し、全線21キロの営業を開始。昭和6年(1931年)に鷲羽山駅が増設され活況を呈した。しかしモータリゼーションの影響などで昭和47年(1972年)に茶屋町-児島間が廃止され、翌年に鉄道敷地を倉敷市へ売却して自転車道として利用されることになったという。児島-下津井間も平成2年(1990年)に廃止された。
自転車道は下津井まで続いているようだが、今回は鷲羽山スカイライン(かつては有料道路。平成7年に無料化され、現在は鷲羽山公園線と呼ばれている)を走るので水島インター付近まで。茶屋町駅の南に駐輪場があり、それが駅舎っぽく見え、その脇道がいかにもな感じだったので進んで行く。すると二股に分かれた左手に歩行者・自転車専用道の標識があった。たぶんこの道だろう。「茶屋町児島自転車道」と名付けられているが、大々的に宣伝しているわけではなさそうだ。
住宅の間を縫うように狭い道が続く。早朝とあって散歩している人も多い。交差する道も多く、踏み切りがたくさんあったのではと想像される。橋も多いという感じだった。分岐するところは車止めのある方へ行けば正解なので迷うこともなく、のんびりと水島インターまでの7キロほどのサイクリングを楽しんだ。ただ、水島インター手前は県道21号(児島線)に沿う形になり広い歩道となる。
茶屋町にある駅標のモニュメントは発見できず、その後も「林」駅のものしか目にすることができなかった。また藤戸駅跡には当時のプラットホームが残っているらしいのだが、これも気付かずスルーしたようだ。取材者失格ですな(^_^;
ちなみに下津井電鉄だが、電鉄が廃止された後も社名はそのままでバス、タクシー事業や不動産事業を展開している。岡山市内で生まれ育った筆者にとっては下電(しもでん)といえばバスでありタクシーだった。
水島インターの先で自転車道から脱出し、しばらく交通量の多い県道を走り広江六丁目を左折して鷲羽山スカイラインへと入ると、いきなり直線のきつい上りが待っていた。これがこのまま続くのかとワクワクしたが、その先はこう配5%台に落ち着いた。地元神奈川で言えば大観山を上る椿ラインのような感じか。
最初のピークの水島展望台までは距離4・6キロ、平均こう配5・4%、最大は8・0%。標高は約250メートル。峠のようなクネクネ道ではなく、直線やゆるやかにワインディングする上りが続いた。展望台からは水島臨海工場地帯が一望できる。岡山県内有数の夜景スポットだそうだ。上っている途中で木々の間の奥の広場のようなところにイノシシの姿が垣間見えたし、きっと真っ暗だろうから自転車で夜に来ようとは思わないが。
この後は県道と交わる交差点まで2・6キロほどいったん下り、再び2キロほど標高190メートル近くまで上る。さらにアップダウンの後、児島展望台となり標高は120メートル。目の前にジーンズで有名な児島の町と瀬戸内が広がるが、ここも夜景が綺麗に見えるスポットらしい。
児島展望台からは下り基調。下り切った後、標高約80メートルの鷲羽山ハイランドへ向けて2キロ弱の上りをこなすと、右手に雄大な瀬戸大橋が見えてくる。昭和53年10月10日に竣工され、9年半の歳月と1兆1300億円の巨費を投じて昭和63年4月10日に開通した。残念ながら自転車は通れない。しまなみ海道(尾道〜今治)だけが瀬戸内を自転車で渡ることができる。これはまた別の機会に挑戦してみよう。
鷲羽山ハイランドから下り、県道へ合流すると巨大な瀬戸大橋の下を通る。ここに碑のようなものがあったのでストップしたのだが、実は橋のたもとに田土浦(たづちのうら)公園があり、ここからの方が真下から迫力満点の瀬戸大橋を見上げることができたようだ。岡山県の観光webによると「日にち限定で行われる瀬戸大橋のライトアップでは、昼間とは異なる美しい夜景が眺められる」とある。やっぱりここは夜来るしかないのか(^_^; 20年公開の小栗旬、星野源がダブル主演した映画「罪の声」のロケも行われたようだ。ただし、二人が缶コーヒーを手にして会話をかわす1シーンだけだったのは残念…。
当時の車両が展示されている鷲羽山下電ホテルを過ぎると鷲羽山への上りに入る。だが、1キロほどで分岐となり、左へ曲がるとあっという間に駐車場に到着した。距離1・3キロほどで平均こう配は3・5%。第二展望台はもう少し先にあり、ここの標高は70メートルほど。鷲羽山スカイラインに入りアップダウンを繰り返したが、山へ向かってピークがどんどん低くなる不思議な道だった。最後はもっと苦しむかと思っていたのだが、鷲羽山自体が標高133メートル。遠足などでこどもの頃に訪れたが、もっと高い山だという印象があったので、ちょっと拍子抜けだった。ちなみに地元神奈川で短い距離のきついヒルクライムで有名な平塚市と大磯町の境にある湘南平でも標高は181メートルある。それより低いのか。
だが、展望台からの眺めは絶景。のどかな瀬戸内の島々と四国へ伸びていく雄大な瀬戸大橋が一望だ。この日はシューズと時間の関係で断念したが、徒歩で第一展望台、頂上へも足を運ぶことができる。また「日本の夕陽百選」にも選ばれており、夕方や夜景も格別らしい。やっぱり「夜」がおすすめのコースなのか。
山の由来は鷲が羽を拡げて飛ぶ姿に似ているところから。昭和9年3月には雲仙、霧島とともに瀬戸内が国立公園の指定を受けた。ちなみに小兵ながら多彩な技で土俵を沸かせ、「鷲羽山」を全国区にした大相撲の鷲羽山(わしゅうやま)は岡山県児島市(現在の倉敷市)の出身だ。
ここまででスタートから約50キロ。次は「日本のエーゲ海」牛窓を目指す。<後編へ続く>【石井政己】





























