113キロ地点の標高1103メートル籠坂峠でまさかの借金生活が待っていた。果たしてゴールは間に合うのか? 4月9日に開催されたAJたまがわ主催のブルベ「籠坂200」にグラベルロードで参戦。制限時間と戦うスリリングな1日を堪能した。


籠坂200のコース
籠坂200のコース

コースは二子玉川~町田~南足柄~御殿場~籠坂峠~山中湖~道志みち~二子玉川で距離は201・7キロ。制限時間は13時間半。最大の難関は籠坂峠だが、一部きつい区間はあるが勾配は4~5%で厳しいものではない。4年前に等々力スタートで籠坂峠手前の「道の駅すばしり」で折り返すブルべ200キロに参加した際、勝手に籠坂峠往復をプラスしたが11時間19分で完走した(詳細はこちら)。今回は10時間台で走れるかなと多少楽観視していた。


しかし、主催者の試走報告を読んで驚いた。43キロ地点の厚木のコントロールポイント(PC)1で30分ほどあった貯金が、60キロ地点の中井町のPC2、75キロ地点の南足柄のPC3とともに10分に減り、113キロ地点のPC4の籠坂峠では34分の借金となっているのだ。都市型ブルベの宿命で渋滞と信号の多い市街地を抜け出すのには時間がかかる。さらにこのコースはPC1~2、2~3の間が15キロしか離れておらず、主催者も「コンビニ休憩のぶんを返済するのがかなりムリ目。そこそこ頑張ったと思うのですが、生きた心地がしませんでした」と嘆いている。


このため、PC2を時間制限なしとし、PC3は廃止。もともと時間制限のない籠坂峠がPC3と直前に変更された。「これで息が詰まるような状況にはなかなかならないようにはできたとは思っています」と主催者。コース設計も楽じゃない。


ここのところはコロナ禍で個別に走るケースばかりだったが、今回は参加者が時間差スタートながら一緒に走った。やっぱり仲間がいると楽しいな。


午前6時52分 多摩川河川敷・兵庫島公園のスタート地点。後方は二子玉川駅
午前6時52分 多摩川河川敷・兵庫島公園のスタート地点。後方は二子玉川駅

午前7時きっかりに多摩川河川敷・兵庫島公園をスタート。渋滞と信号だらけの市街地を抜け出し、43・1キロ地点のPC1「ローソン厚木小野宮前店」には午前9時19分に到着。貯金は50分とまずまず。この先の新東名・伊勢原大山インター付近では視界が開け、ようやくようやくブルベらしい風景が現れた。


午前9時42分 新東名・伊勢原大山インター付近。ようやくブルベらしい風景が現れた
午前9時42分 新東名・伊勢原大山インター付近。ようやくブルベらしい風景が現れた

ところがこの後の鶴巻温泉から東海大へ抜けるあたりの渋滞で時間を食い、60・8キロ地点のPC2「ローソン中井町井ノ口店」では貯金が34分に減っていた。時間制限がないのでバーチャルだが、試走報告通りとなってきた。


65・7キロ地点からは中井町の山道に入る。鴨沢隧道を抜け、見上げれば東名高速の赤い橋が見える柄沢橋の先を左へ。「いこいの村あしがら」方面へ続く、車1台分の幅しかない細い道だ。以前、逆方向から下ってきたことがあり、サイクリングらしいマニアックな道で気に入っていた。しかし、ここがまさかブルベルートになるとは。逆に言うと、ここがコースに入ったので走ってみたくなったのも事実。


爆音が鳴り響く大井松田カートランドを過ぎてしばらくすると砂利道区間となった。たった300メートルで「ロードバイクのタイヤでもハンドルを取られない程度の路面状況」と試走報告にあったが、この区間のためにこの日はタイヤ40Cのグラベルロードで参戦。どんと来いだったが、荒れてもおらず硬い路面にちょっと拍子抜け。終盤にあった大きな水たまりを避けようと道の端を通った時にバランスを崩しかけたが、足を着いて何とか転倒を回避し無事通過した。


午前10時49分 ここを左に入って山道へ。前方の赤い橋は東名高速
午前10時49分 ここを左に入って山道へ。前方の赤い橋は東名高速
午前10時49分 中井町から大井町へかけての山道へ入る
午前10時49分 中井町から大井町へかけての山道へ入る
午前10時51分 大井松田カートランド前を通過
午前10時51分 大井松田カートランド前を通過
午前10時53分 砂利道現る
午前10時53分 砂利道現る
午前10時54分 300メートルの砂利道突破
午前10時54分 300メートルの砂利道突破

砂利道を抜けると「いこいの村あしがら」へ向かって1キロほどの10%超も現れるきつい上りが続く。汗びっしょりで上り切り、下りの途中でこの日初めての富士山が目に飛び込んでた。あそこへ向かって走るのだ。


午前11時9分 正面に富士山
午前11時9分 正面に富士山

この後、大井町の「めがねみち」という名のトンネルを抜けると、再び富士山の絶景。ブルベらしい風景が次々に現れる。


午前11時13分 めがね道へ入る
午前11時13分 めがね道へ入る
午前11時13分 トンネル抜けると富士山
午前11時13分 トンネル抜けると富士山

チェックポイントではなくなったが、75・5キロ地点の「道の駅 足柄・金太郎のふるさと」付近には午前11時32分に到着した。バーチャルで貯金は32分。PC2とほとんど変わっていない。道の駅でランチにしたかったが、この時刻では混んでいて時間がかかりそうだ。そこで以前から気になっていた山北駅前の小さな食堂を目指すことにした。


80キロ過ぎの山北駅に着いたのは正午前。お店に入ってきちんと食事することで貯金32分は吹き飛ぶが、旅先での食事もサイクリングの魅力のひとつ。お店に入り「一番早くできるのは何ですか」と尋ねると「うちは何でも早いよ!」と店員の女性が陽気に答えてくれた。メニューの一番上にあったアジ・イカフライ定食を頼み、揚げたてのほくほく感を味わいながら急いで胃に流し込む。滞在は20分ほどか。鉄道の街らしく、古民家風のお店の中には鉄道模型も展示されていた。しかし、のんびり鑑賞するヒマはない。「今度はゆっくり来てね」の声を背中に受けて慌ただしく走り出した。


午前11時32分 道の駅足柄・金太郎のふるさと付近
午前11時32分 道の駅足柄・金太郎のふるさと付近
午前11時41分 酒匂川・新大口橋付近の桜
午前11時41分 酒匂川・新大口橋付近の桜
午前11時58分 山北駅前の食堂でランチ
午前11時58分 山北駅前の食堂でランチ
午後0時11分 山北駅前の「ポッポ駅前屋」
午後0時11分 山北駅前の「ポッポ駅前屋」
午後0時11分 店内には鉄道のジオラマ
午後0時11分 店内には鉄道のジオラマ

静岡県に入ってすぐの「生土交差点」で国道264号を離れ、県道394号(沼津小山線)に入る。標高1103メートルの籠坂峠への登坂は小山町役場の先の急坂を上るところから始まる。距離は約20キロ。最高勾配は8%を超えるがそれはほんの一部で、平均勾配は4・4%。大部分が4~5%の坂を淡々と上って行く。だが、この日は強烈は向かい風が吹き続け、勾配はプラス2%ほどに感じられた。また突風に襲いかかられると、勢いに押され止まりそうになった。気温は高く、半袖・レーパンで走れるサイクリング日和。風がなければ最高なんだが。雨はイヤだが、風も嫌いだ。


午後0時48分 生土交差点から県道394号へ。富士山へ向かって進む
午後0時48分 生土交差点から県道394号へ。富士山へ向かって進む
午後1時28分 県道151号(須走小山線)富士山が段々と近づいてくる
午後1時28分 県道151号(須走小山線)富士山が段々と近づいてくる
午後1時39分 勾配は5%以下だが直線の上りが続く(振り返って撮影)
午後1時39分 勾配は5%以下だが直線の上りが続く(振り返って撮影)

97・2キロ地点の「吉久保」交差点を右折し、県道151号(須走小山線)に入る。富士山の姿が徐々に近づいてきた。心が折れそうな直線の上りが続くが、雄大な眺めが心の支えだ。


やがて右手に東京オリンピック自転車ロードレースのモニュメントが見えてきた。103・9キロ地点で「オカムラ御殿場工場」前の交差点の反対車線。SNSでよく見かけたが、ここにあったんだと感激ひとしお。ロード男子ではこの地点を籠坂峠から来て2回通り、2度目はエクアドル史上2個目の金メダルを獲得したリチャル・カラパスと6位となったブランドン・マックナルティ(米国)が2人で逃げ、銀のワウト・ファンアールト(ベルギー)、銅のツール・ド・フランス王者タディ・ポガチャル(スロベニア)は追走集団にいた。思い出すなぁ、あの興奮。


自転車がロードより重いので台の上に持ち上げるのにひと苦労した。やっとの思いで持ち上げたが、今度はタイヤが太すぎて枠に収まらない。最後は力ずくで押し込んだ。


午後1時46分 103キロ地点にある東京オリンピック自転車ロードレースのモニュメント
午後1時46分 103キロ地点にある東京オリンピック自転車ロードレースのモニュメント

この地点からの上りが一番きつく、勾配10%弱の急坂がしばらく続く。これを頑張ってこなすと勾配は一気に緩くなり須走富士浅間神社まで平たんのような感じで道は進む。


国道138号沿いの「道の駅すばしり」通過は午後2時9分。ここから籠坂峠までは約6キロで平均勾配は5%弱。過去2度上ったことがあり時間はともに30分だった。バーチャルの制限時間は午後2時36分だから……あ、時刻不問じゃなければアウトじゃないか! 道の駅で富士山ソフトを食べてひと休みしているヒマはない。急げ!


午後2時8分 道の駅すばしり近くからの富士山
午後2時8分 道の駅すばしり近くからの富士山

結果、籠坂峠到着は午後2時45分。36分もかかってしまった。4年前より衰えたか。バーチャルとは言え、9分の借金だ。


午後2時45分 113・6キロ地点の籠坂峠
午後2時45分 113・6キロ地点の籠坂峠

残り87キロ。借金返済への旅が始まった。まずは山中湖へ向かっての2キロを一気に下り、旭日丘交差点から国道413号に入って反時計回りに平たんな湖畔を疾走。平野交差点から道志みちへ。標高1090メートルの山伏トンネルへの1キロほどの上りをこなすと、この先は山梨と神奈川県境の両国橋へ向かって25キロ、信号たった2つの天国の下りだ。アームウオーマー、レッグウオーマーを着け、ウインドブレーカーを着込んで走り出す。


午後3時18分 123・9キロ地点の山伏峠
午後3時18分 123・9キロ地点の山伏峠

幸い車もバイクも少なく、序盤5キロの勾配のきついところは平均時速40キロ台でぶっ飛ばした。ペダルもガシガシ回したいのだが、ロードと違いグラベルはフロントが46T。上りは楽だが、下りはギアが足りず足が余ってしまい、今ひとつスピードに乗らないのが玉にきずだった。道中で写真スポットはいくつかあるが、全てスルーして下り続けた。


神奈川県に入ると、勾配9%で始まる上り返しが待っているが、5キロラップで平均速度20キロ以上を維持。最終PCの「セブン―イレブン相模原津久井太井東店」には午後5時4分に到着。借金は返済し、貯金が1時間8分に増えていた。これでひと安心だ。


この先は市街地に入り夕方の渋滞もあって苦労したが、尾根幹(南多摩尾根幹線道路)の終盤の下りにも助けられゴールの「セブン―イレブン狛江猪方3丁目店」へは午後7時4分の到着。貯金はあると言ってもメカトラなどが発生すれば予断を許さない状況だったが、無事に12時間4分で完走した。はみ出た4分というのが少し悔しいが……。


午後6時39分 195・4キロ地点の多摩川原橋
午後6時39分 195・4キロ地点の多摩川原橋
午後7時7分 ゴール後はお約束のエクレア
午後7時7分 ゴール後はお約束のエクレア

主催者は試走報告の中で「あんまいいコースじゃないと思います。申し訳ありません(笑)」と自らダメ出ししている。いえいえ、とんでもない。個性あふれた面白いコースで、いろいろな意味で十分に楽しませてもらった。中盤まで貯金が徐々に減っていって焦った部分もあったが、終わって見ればこの日も楽しいブルベだった。最高気温は24度。日焼けしちゃったかな(^_^;【石井政己】