相模原市の自宅を出発し、合計230キロの1泊2日峠越えツーリングは、芦ノ湖に到着した。

缶コーヒーを飲み終えスマホを見ると時刻は14時27分。ここから山を下りて御殿場のホテルまで、まだ30キロ以上ある。夜間走行は避けたいところ。「さあ、そろそろ行こうか…」背中をグーッとひと伸ばしすると、再びサドルにまたがった。

国道1号に戻るとクルマが数珠つなぎ、渋滞を作っていた。先頭を見ると道幅の狭いところで路線バスと観光バスが止まっている、これではどうにもならない。しかしこんな状況でもE-Bikeならその横をスルスルと走り抜けられる。何だか得した気分だ。国道から土産物屋や食事どころが並ぶ神社通りに入り、左手に芦ノ湖を見ながら、仙石原方面へと向かう。

道は緩やかなアップダウン、時速20キロ弱のペースを維持して進んで行く。一度キツイ峠越えをしている、ここからは基本的に御殿場まで下りが中心、体力的にもバッテリー残量的にも余裕がある。それでも時間を考えると景色の良いところにE-Bikeを止めて写真を撮ったり、神社で参拝をする余裕はない。それでも流れる景色を眺めながらペダルをこぐだけでも気持ちが良く幸せな気分だった。

遊覧船が発着する箱根湖尻ターミナルを過ぎると、湖は見えなくなりやや上り坂になる。しばらく走ると緩やかな下り坂に変わり、パッと視界が開けると同時にススキの草原が目に飛び込んでくる。なだらかな山の斜面は見事なほど黄金色に染め上げられている。ちょうど見頃のようで、ススキの草原を分けるように延びた遊歩道は観光客で埋め尽くされていた。


仙石原のススキは美しかった
仙石原のススキは美しかった

小田原と御殿場を結ぶ国道138号にぶつかると、御殿場方面へ左折する。しばらく走ると乙女トンネルが現れる。ヘッドライトをONにして突入。実はこのトンネルが意外と怖い、後方から迫ってくるトラックの排気音が壁に反響してすさまじい音になるのだ。「グワーーッ!」「ゴーーッ!」まるで恐竜のうなり声のようなごう音が後ろから前から襲ってくる。僕は恐怖を振り払うように必死にペダルをこいだ。

出口の明かりが見え、外に出ると「ああ、怖かった…」と息を吐く。ここからは下り坂、全身にまとわりついた恐怖心を吹き飛ばすようにスピードを上げた。残り5キロ、時計を見ると16時45分、どうやら日が暮れる前に宿に着けそうだ。丘を越えると宿泊予定のビジネスホテルが見えてきた、その後ろで富士山が「お疲れさん」と笑っていた。


走行距離が100キロになったところで記念写真
走行距離が100キロになったところで記念写真

自転車旅行でホテルに泊まるのは今回が初めて。安全な保管場所はあるのか?気になってた。受付での手続きの途中、自転車をどこに止めたらいいのか聞いてみる。すると「お客様の大切な自転車だと思いますので、お部屋に持って行っても構いませんよ」と親切に言ってくれるではないか。「本当ですか?ありがとうございます」興奮気味にお礼を告げる。まさか、そんなことができるとは思わなかった。部屋に置けたら一番安心だし、そのまま充電もできる。従業員をハグしたくなるくらいうれしかった。

サイクルコンピューターを見るとこの日の走行距離は109.5キロを示していた。それなのに思ったほど疲れは感じていないし、筋肉痛もない。体力的にも精神的にもまだまだ余裕。これもE-Bikeのおかげ? 妻にLINEで部屋の写真を送ると「部屋に自転車を入れたんだ、よかったねー!」自分のことのように喜んでくれた。

シャワーを浴びさっぱりしてから、歩いて近所のラーメン店へ行った。五目ラーメンを食べたが物足りなかったので、帰りにコンビニに立ち寄った。冷蔵庫のジュースを見ていると店員が僕の所へ来て「すみません、ちょっとトイレに行きたくて…、少し会計を待ってもらえますか?」と言った。店番がひとりじゃトイレもいけないよなぁ。いいですよと答えると、店員は小走りでトイレへ向かった。その様子を眺めながら、ほのぼのとした気持ちになった。


ホテルの部屋にE-Bikeを入れさせてもらった
ホテルの部屋にE-Bikeを入れさせてもらった

GOTOトラベルの地域共通クーポンをゲット
GOTOトラベルの地域共通クーポンをゲット

五目ラーメンで腹ごしらえ
五目ラーメンで腹ごしらえ

朝起きて部屋のカーテンを開けると、富士山がドーン。「おはよう!」富士山は見ているだけで元気がもらえる。この日は御殿場市内を通って、小山町から明神峠と三国峠を越えて山中湖へ出る。その後は道志みち(国道413号)の山伏峠を越えて相模原の自宅まで走る予定。距離は昨日と同じ100キロくらいだろうか。あの”天下の険”箱根を越えて来たんだ、今日の峠だってノープロブレム。ド~ンと来いだ。


ホテルの部屋から眺める富士山
ホテルの部屋から眺める富士山

国道246号を北上。幹線道路の上に月曜だからか交通量が多い。追い越しのトラックに注意をしながら、緩やかな上り坂を上って行く。最初に見つけた牛丼店で朝ごはん。さけ定食と納豆。ひと走りした後なのでごはんがうまくて仕方がない。部活の高校生のようにガツガツ食べた。


国道246号を行く
国道246号を行く

国道はどうも落ち着かないので、グーグルマップを見て山中湖と小山線をつなぐ脇道へ入っていった。一気にローカルな道になり、クルマもいなくなる。田園地帯に入ると視界が開け、美しい富士山のシルエットが浮かび上がった。「この角度からの富士山は最高だなぁ」「いや待てよ、ここの方が建物が少なくていいんじゃないか!?」富士山の眺めのいい場所を見つける度にE-Bikeを止めて写真を撮った。これでは思うように進まないが、そんなことが楽しく感じる。目的地に予定通りに着くのは旅じゃない、そこにある世界を楽しむことが旅だから。僕はいつもそんな風に思いながら旅をしている。


富士山とE-Bikeと僕
富士山とE-Bikeと僕

富士山に向かうように道が延びていた
富士山に向かうように道が延びていた

いよいよ明神峠へ向かう道のりが始まる
いよいよ明神峠へ向かう道のりが始まる

国際サーキットのひとつ「富士スピードウェイ」の東ゲートを経由して山中湖小山線に入って行く。道は明神峠へ向かって、2車線の上り坂が続く。山の斜面に沿って道が延びていて右が崖、左は谷のようになっている。ダラダラ長い坂がひたすら続く。交通量は少ないがツーリングルートらしく、時々オートバイが追い抜いて行く。つい先日までオートバイで国内外を走り回っていたのに、オートバイが少し遠い存在に感じる。

前日の箱根を思えば、この日は楽勝と思っていたが、想定外にキツかった。急勾配の上り坂が延々と続いているためか、前日よりも確実に息が荒くなっている。靴擦れの足は痛いはずなのに、こぐことに集中しているからか、痛みを感じない。ときどきE-Bikeを止めて、一度息を整えてから、再びペダルをこぐ。焦らずマイペースで進む。昔ならムキになって休まずこいでいただろう、いまはそんなことはしない。休むことも、走ることも、疲れることさえ楽しいと感じている自分に気が付いた。【藤原かんいち】


少しずつ標高を上げて行く
少しずつ標高を上げて行く

疲れて休憩。この旅で一番きつかった場面
疲れて休憩。この旅で一番きつかった場面

写真を撮れるくらいなのでまだ余裕がある(?)
写真を撮れるくらいなのでまだ余裕がある(?)