新型コロナウイルスが世界的に大流行して1年。アメリカでは昨年12月からワクチンの接種が始まっているものの、依然として感染拡大の影響が続くここロサンゼルス(LA)では、コロナ禍で職を失ったり、働けずに経済的困窮を抱えている人が今も大勢います。アメリカではコロナ禍以前から市場で流通できず廃棄処分される食品などの寄付を受け付け、必要とする低所得者の人たちに配るフードバンクと呼ばれる支援がありましたが、パンデミック以降はこういったサービスを受ける人が急増。企業やレストラン、農家などから寄付された食品を段ボールに詰めてドライブスルー形式で配っている会場には連日長蛇の列ができています。家族の人数構成など事前に登録した情報を基に生鮮食品から缶詰やシリアル、米やパスタなど必要な食料が定期的に無料でもらえるとはいえ、毎回自分が欲しい物が必ずもらえるわけではなく、車がないと利用し難いなどのデメリットもあります。また、登録するのが面倒だったり、躊躇したりと気軽に使えない人もいる中、もっと手軽に必要な人に必要なだけ食べ物を届ける地域密着型の支援が今、LAで注目されています。

教会の前に設置された冷蔵庫
教会の前に設置された冷蔵庫

以前からニューヨークやポートランドなどで話題になっていた「コミュニティフリッジ(地域または公共の冷蔵庫)」がコロナ禍で今、LAでも注目を集めています。コミュニティフリッジとはその名の通り、地域の街角にある冷蔵庫のこと。電源が入った普通の冷蔵庫で、中には野菜や果物など生鮮食品から乳製品、パンや肉に至るまで様々な食料が入っています。生鮮食品以外にも水やジュース、缶詰など保存食もあり、誰でも自由に無料で持ち帰ることができます。カラフルでポップな絵が描かれた冷蔵庫は遠くからでも目につきやすく、1日24時間利用が可能。そんな冷蔵庫が今、LAのあちらこちらに出現しているのです。

アーティストが描いたポップなイラストも特徴
アーティストが描いたポップなイラストも特徴
公式サイトでは設置場所やストックしてある食料、必要なもののリストなども公開されています(LAコミュニティフリッジのサイトより)
公式サイトでは設置場所やストックしてある食料、必要なもののリストなども公開されています(LAコミュニティフリッジのサイトより)

仕組みはとても簡単で、電源と冷蔵庫が設置できるスペースさえあれば誰でもこの運動に参加でき、例えば筆者の自宅近所のコミュニティフリッジは教会が運営しています。個人商店などが店の前に設置しているケースもあり、地域密着型なのでより気軽に利用できるのが特徴です。設置後は、地域のボランティアたちが食料の補充や管理、冷蔵庫の掃除などを請け負います。利用するのは食料が欲しい人だけでなく、自宅に余っている食料や食べきれない食材をそこに入れて寄付することもできます。フードバンクのように人と接触することもなく、食料をもらうために登録して並んだり、理由や年収などを聞かれることもなく、もらえる量に制限もないので気兼ねなく利用できるのも特徴です。メキシコ系移民が多いLAらしく英語だけでなくスペイン語でもComida Gratis(無料の食事)と書かれており、マイノリティへの配慮もされています。公式サイトには、冷蔵庫の設置場所やそれぞれの冷蔵庫に入っている食材、必要な食材などの情報も公開されており、もらう側も寄付する側もより利用しやすくなる取り組みもされています。また食品以外にも、洗剤やペーパータオル、プラスチックフォークなどを置いてある場所もあり、お金がなく困っている人にはありがたい存在です。

建物の一角に置かれた冷蔵庫は地域の人々の支えで運営されています
建物の一角に置かれた冷蔵庫は地域の人々の支えで運営されています

食料廃棄は近年、世界中で大きな社会問題となっていますが、大量廃棄が問題視される企業だけでなく、家庭や個人経営の飲食店や商店で廃棄される食料もかなりの量を占めています。コロナをきっかけに普及しているコミュニティフリッジですが、個人レベルでの無駄な廃棄を減らし、それを困っている人に届ける仕組みは、これからの社会にとって必要な取り組みであり、今後もこうした運動の輪は広がっていくことでしょう。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)