コロナ禍になって2度目となる夏を迎えるアメリカは、ワクチン接種を終えた人たちを中心に早くもバカンスモードまっしぐらです。5月の最終月曜日の祝日「戦没将兵追悼記念日」を含む3連休はメモリアルウイークエンドと呼ばれ、夏休みシーズンのスタートとなりますが、1年以上自粛生活を送ってきた人たちがコロナ禍前のように一斉にバカンスに出かけようと盛り上がっています。そしてこの夏は在米日本人の間でも、コロナ禍でずっと我慢してきた日本への帰省をどうするかといった話題で持ち切りです。

LAでは無料でPCR検査が受けられ、ドライブスルーの検査場もあり気軽に利用できます
LAでは無料でPCR検査が受けられ、ドライブスルーの検査場もあり気軽に利用できます

もちろんアメリカの状況は改善されつつあるものの、変異種の存在や日本では緊急事態宣言が発令中の都道府県もあるため、感染状況が悪化している中での帰国をためらう人も少なくありません。しかし、それとは別に帰国を躊躇する人が多い理由の一つが、日本の厳しい水際対策です。筆者も含め、日本入国後14日間の隔離措置のために帰国を断念せざるを得ないのです。この期間は乗り換えの国内線を含む公共交通機関の利用が禁じられているため、物理的にレンタカーやチャーターのハイヤーで移動ができない北海道や沖縄などへの帰国は不可能なためです。筆者の友人の中には東京都内に自主隔離用の部屋を2週間借りて帰国している人もいますが、金銭的な問題に加えて時間的な余裕もないとなかなか難しいのが現実です。

それでも様々な理由から帰国を決断した人たちの間では今、「日本到着後に日本人が入国拒否されて送還された事件」が波紋を広げています。今月に入ってロサンゼルス(LA)で利用している日系の旅行代理店から「アメリカとオランダから日本に帰国しようとした日本人2名が「コロナ検査証明書」の不備が理由で入国できずに出発地に送還されたため、帰国予定の方は注意されたし」と知らせるメールが届き、あっという間にこの事件が在米日本人の間で知れ渡ることとなり、議論を呼んでいます。まさか日本国籍を持つ自分たちが、日本への入国を拒否される事態が起こるとは考えたこともなく、コロナ禍になって初めて帰国を予定している友人たちはみな戦々恐々としています。

ドラッグストアでワクチン接種も可能となっており、LAでは半数以上の成人が少なくとも1回の接種を受けています
ドラッグストアでワクチン接種も可能となっており、LAでは半数以上の成人が少なくとも1回の接種を受けています

そもそも、日本生まれで日本国籍を持つ日本人の入国を拒否することは「基本的人権の侵害」ではないのかといった問題や、入管当局が日本国政府発行のパスポートを所持する日本人の帰国を拒否する権限を持っているのか?といった疑問、そしてこれは「公権力の濫用ではないか」といった批判もありますが、それとは別に「ワクチン接種を終えた自分たちが、なぜワクチン後進国の日本からこれほどまでに厳しい措置を受けなければならないのか」という不満も出ています。LAでは13日から、12歳以上であれば誰でもワクチン接種が可能となっており、多くの在米日本人も接種を終えています。日本に帰国するために接種する人もいるほどで、日本入国に際する水際対策はワクチン先進国アメリカからの入国者にとっては不条理に感じるのは当然と言えば当然なのかもしれません。

アメリカの観光地には大勢の人が押し寄せて賑わいを見せています
アメリカの観光地には大勢の人が押し寄せて賑わいを見せています

そもそも今、日本に帰国しようとするとワクチンの接種や日本人か否かを問わず厚生労働省が定めた様式の陰性証明書を含む書類一式を揃える必要があります。入国できなかった日本人2名(分かっている範囲)は、この書類に不備があったために入国が認められず搭乗地に送還措置されたわけですが、この厚生労働省が求める書式というのが大きなネックになっています。LAでは街中に無料で受けられるPCR検査場がいくつもありますが、問題は厚生労働省が求める「鼻咽頭ぬぐい液」という採取方法で検査を行ってくれる検査場がないことです。つまり、この検査場で陰性が証明されても日本には入国が認められないため、数少ない検査機関を探してそこまで出向いた上に、200ドルの検査費用を支払って陰性証明書を手に入れる必要があるのです。さらに入国するには厚生労働省が求めるアプリを利用できるスマートフォンを所有している必要があり、日本到着時に通信が可能なスマホを持っていないと入国が認められません。また、複数のアプリをインストールする必要もあり、つい先日帰国した友人が空港から「機械音痴の人や高齢者には帰国するなと言っているようなものだ」と怒り心頭でメールを送ってきましたが、その彼女もワクチン接種を終えているわけですから、不満が爆発するのも分かります。そして、ワクチン接種に関わらず日本人には隔離を求める一方で、オリンピック(五輪)のために海外から入国する選手や関係者には隔離を免除するというのですから、不公平だと批判されて無理はありません。

日本からの観光客もアメリカに入国することが可能です
日本からの観光客もアメリカに入国することが可能です

ちなみに、アメリカへの入国は出発の3日前以内に受けたPCR検査の陰性証明書があれば日本人でも可能で、検体採取方法の指定はなく、抗原検査も認められています。また、スマホ所持やアプリのインストールなど面倒な手続きも必要ありません。隔離に関しては州によって対応は異なりますが、現時点でLAでは10日間の自己隔離を義務付けていますが、国内線への乗り継ぎや空港から配車サービスのウーバーなどを利用することは可能です。コロナ禍以降、様々な場面でアメリカと日本のコロナ対策に関する認識の違いや対応のギャップを感じてきましたが、日々変化している世界の流れに反する水際対策もその一つです。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)