井原鉄道井原線は岡山県総社市の総社駅から広島県福山市の神辺駅を結ぶ第3セクター。新規開業してから21年と、まだ若い路線だ。実はこの2カ月の間に3回も現地を訪れるほど私は、すっかり井原鉄道に魅せられてしまった。前後編に分けて紹介します。複数回訪れているので実際の訪問と時系列が前後していることがありますが、ご容赦ください。

井原鉄道は山陽本線の倉敷~福山の北側部分を補完するようにレールが敷かれている。開業は1999年と新しいが、地域としての歴史は古く西国街道を含め重要な場所だった。当然、鉄路も大正時代には敷設され、井原には以前、井笠鉄道が乗り入れていた(駅の場所は異なる)。「井」は「井原」、「笠」は山陽本線の「笠岡」である。

井笠鉄道本線は笠岡から北へと井原に向かい、途中で矢掛に向かう矢掛線が分岐。井原からは神辺へと向かう神辺線があった。60年代末から70年代前半にかけて廃線となったが、前述した通り歴史は古い。

現在、井原市と笠岡市は岡山県、福山市は広島県と分かれているが、江戸時代までは同じ国。日本の場合、県境は古くからの国で分かれていることが多いが、珍しい例である。そしてまた、これも日本らしいところだが、古くからの結びつきは今も続く。井原と笠岡を結ぶ鉄路は廃線となったが、神辺~井原~矢掛は井原鉄道によって「復元」された。

そもそも国鉄時代に現在の井原鉄道とほぼ同じコースで国鉄井原線が計画され、工事が始まったために井笠鉄道が廃線になったという側面があった。国鉄の経営不振によって工事は中止されたが、その後、約40年ぶりにこの地を走った列車には、国鉄の工事でほぼできていた高架や旧井笠鉄道の路盤が引き継がれた。要は唐突にできた路線ではないのである。

〈1〉井原駅のホーム
〈1〉井原駅のホーム
〈2〉特徴的な井原駅の駅舎
〈2〉特徴的な井原駅の駅舎
〈3〉井原駅の改札口
〈3〉井原駅の改札口

中心駅である井原駅で降り立った(写真〈1〉~〈3〉)。「かっこいい」駅舎だ。ガラス張りで中にはホール、レストラン、専門店、観光協会などが入っている。目を引くのは三角すいの部分。私は初めての駅訪問の場合、あえて事前情報を少なめにするようにしている。もちろん列車本数や飲食店については調べるが、駅そのものについては出会いや最初の印象を大事にしたいので。

駅前のバスターミナルの先にその答えはあった。源平合戦の屋島の戦いでの「扇の的」は私も知っているが、主人公の那須与一が、この地に領地を与えられたことにちなんで駅舎も弓矢を模したという。立ち位置が決まっていて那須与一と同じものが見えるというので「まさか」と半信半疑で立ってみると「おお~」。ちょっと感激した(写真〈4〉~〈6〉)。

〈4〉扇の的の説明
〈4〉扇の的の説明
〈5〉足の位置が決まっていた
〈5〉足の位置が決まっていた
〈6〉のぞいてみると感激した
〈6〉のぞいてみると感激した

さて、ここでようやく駅について調べ始める。実は来るまで井笠鉄道と井原鉄道の井原駅は同じ場所と思い込んでいたのだが、周囲の風景はどう見ても開業時の99年にできたものだろう。調べた結果、井笠鉄道の井原駅は現在バスターミナルになっているということで歩き始めた。かつての駅跡があるのだから、ここまで来て見ないわけにはいかない。一本道を結構歩いた(写真〈7〉)。15分ほどで古くからの町らしきものが見えてきた。銀行は町の中心部の証明だが、その近くにあるのがバスターミナル(写真〈8〉)。駅跡らしきものは見つけられなかったが満足は得た。

〈7〉現在の井原駅と旧井原駅は長い直線の一本道となっている
〈7〉現在の井原駅と旧井原駅は長い直線の一本道となっている
〈8〉井笠鉄道の井原駅は現在バスセンターとなっている
〈8〉井笠鉄道の井原駅は現在バスセンターとなっている

だがこうなると具体的な駅跡がどうしても見たい。ということで後日の訪問で井笠鉄道の矢掛駅に行くことに。矢掛の宿場町はきれいに保存、整備されている。井原鉄道の矢掛駅は宿場町から徒歩で10分以上かかるが、おそらく昔は町中にあったのだろうと思ったら違った。駅前の交番で丁寧に最短ルートを教えてもらって徒歩20分。時間と距離もそうだが、どんどん町から離れていく。教えてくれたのが警察官の方でなければ、かなり不安になっただろう。

〈9〉矢掛宿は町並みが保存、整備され観光客も多い
〈9〉矢掛宿は町並みが保存、整備され観光客も多い

場所は旧山陽道に面した宿場町(写真〈9〉)の西端のさらに西寄り。矢掛線の終着駅だったが、川があり渡ることができなかったと思われる。バスターミナルになっているが駅舎は、そのまま使用されている。かつて「矢掛駅」の駅名標があった場所はベニヤ板で覆われている。新しいので覆われたのは最近なのだろう(写真〈10〉~〈12〉)。

〈10〉廃線となった井笠鉄道の矢掛駅の駅舎は、そのままバスターミナルとなっている
〈10〉廃線となった井笠鉄道の矢掛駅の駅舎は、そのままバスターミナルとなっている
〈11〉ベニヤ板で覆われた部分は少し前まで「矢掛駅」の駅名標となっていた
〈11〉ベニヤ板で覆われた部分は少し前まで「矢掛駅」の駅名標となっていた
〈12〉ベンチはかなり年季の入ったものだった
〈12〉ベンチはかなり年季の入ったものだった

面影は十分で、その先は廃線跡と思われる道路が続いている(写真〈13〉)。

〈13〉かつて線路があったと思われる道路
〈13〉かつて線路があったと思われる道路

進んでいきたかったが今回は時間がない。またそのうち訪れることになりそうだ。【高木茂久】