兵庫県の山中を走るローカル線、北条鉄道の全駅を訪問してみた(写真1)。全駅といってもJR加古川線と神戸電鉄の接続駅である粟生を含めて8駅しかない。9月からの列車交換(すれ違い)が始まる前に、行って戻って-の行程を味わっておこうと訪ねた駅は、セミの鳴き声が響く駅、大正期からの駅舎が残る駅と癒やされるものばかりだった。

〈1〉北条鉄道の1日フリーきっぷ
〈1〉北条鉄道の1日フリーきっぷ

全駅乗りつぶしというのは、なかなか骨の折れる作業だが、北条鉄道は全線乗車が20分ちょっとで濃い鉄道ファンでなくとも楽しめる。実際の行程でたどってみよう。なお粟生駅は過去何度も行っており、今回は訪れなかったので、まずは粟生駅の紹介から。


▼粟生駅(写真2)

〈2〉JR加古川線、神戸電鉄、北条鉄道の結点駅となる粟生
〈2〉JR加古川線、神戸電鉄、北条鉄道の結点駅となる粟生

JR加古川線、神戸電鉄粟生線との結点。昼間は加古川線の上下線を含め、全路線が1時間に1本のダイヤとなるよう組まれていてスムーズに乗り換えできるようになっている。北条鉄道では唯一、加西市外(小野市)にある駅。


▼北条町9時34分→9時51分網引(写真3~5)

〈3〉イチョウの木が映える網引駅
〈3〉イチョウの木が映える網引駅
〈4〉網引駅のホーム
〈4〉網引駅のホーム
〈5〉網引駅の待合室に張られたイチョウの写真集
〈5〉網引駅の待合室に張られたイチョウの写真集

まず北条町で1日フリーきっぷを購入した(※1)。840円。始発の粟生から終点の北条町まで420円だから単に往復するだけで元がとれるのでとてもお得だ。運行は基本的に1時間1本。1駅ずつ進むと6時間もかかってしまうため両端から行ったり来たりを繰り返そう。どの駅も約20分の滞在で済む。「行き違い設備完成」ヘッドマーク付きの列車で出発する(写真6)。

〈6〉行き違い設備完成のヘッドマーク付き列車で出発
〈6〉行き違い設備完成のヘッドマーク付き列車で出発

駅前のイチョウの木が目を引く網引駅。秋の紅葉時は多くの人が訪れるが、放置すると大変なギンナンや落ち葉は地元の方々がきれいに清掃している。11人が犠牲になった1945年3月の脱線転覆事故を慰霊する説明書がある。


▼網引10時8分発→10時23分播磨横田(写真7、8)

〈7〉播磨横田駅の駅舎はギャラリーとなっている
〈7〉播磨横田駅の駅舎はギャラリーとなっている
〈8〉播磨横田駅の駅名標
〈8〉播磨横田駅の駅名標

2014年にコンクリート新駅舎ができたばかり。駅舎はギャラリーとなっている。春は季節はホームの桜を目当てに多くの撮り鉄が訪れる。


▼播磨横田10時43分→10時54分田原(写真9)

〈9〉手づくりの田原駅の駅名標
〈9〉手づくりの田原駅の駅名標

ホームと小さな待合室。埼玉県のものづくり大学に加西市出身の学生がいたことから、学生の皆さんらがボランティアで木造の駅舎を造った。国鉄時代には田原俊彦さんのファンが押しかけたという話題をツイッターでしたところ「たのきんトリオ」「ベストテン」「トップテン」というワード関連のリプライをいただいた。タイムマシンにも乗せてくれる駅。


▼田原11時16分→11時25分長(写真10、11)

〈10〉長駅の駅舎は大正時代のもの
〈10〉長駅の駅舎は大正時代のもの
〈11〉長駅の駅名標も大正期からのもの
〈11〉長駅の駅名標も大正期からのもの

1915年の開業時からの駅舎が残る。駅舎とホームは法華口、播磨下里とともに登録有形文化財。駅舎には駅ナカ婚活相談所が設置されている(※2)。


▼長11時46分→11時52分法華口(写真12~14)

〈12〉法華口の新ホームと新しい駅名標
〈12〉法華口の新ホームと新しい駅名標
〈13〉新ホームから見た旧ホームと駅舎
〈13〉新ホームから見た旧ホームと駅舎
〈14〉法華口駅舎内のパン店でソフトクリームでひと休み
〈14〉法華口駅舎内のパン店でソフトクリームでひと休み

北条鉄道発足35年で初めて列車交換設備が設けられた。9月からの使用に向けて先日、新ダイヤが発表された。平日の朝夕に5本の列車が増発される。駅舎では米粉と地元食材を使用したパン店が営業中。ソフトクリームをいただく。


▼法華口12時18分→12時22分播磨下里(写真15、16)

〈15〉播磨下里の駅舎
〈15〉播磨下里の駅舎
〈16〉播磨下里駅の財産標
〈16〉播磨下里駅の財産標

お坊さんのボランティア駅長による「下里庵」や「お絵かき教室」が開催される(※3)。これで全駅訪問完了。ちなみにスタートから、どの駅で乗降しても同じ運転士さんだった(笑い)。どう思われたのだろうか? 

ただゴールは北条町駅の帰還である。北条町行きは1時間後。先に来る粟生行きに乗り戻って来ても、その列車に乗車することになるのだが、なんとなくぼんやりしたくなって1時間過ごすことにすると、70代ぐらいと思われるご夫婦がやって来て、ご主人が熱心に写真を撮り始めた。奥さんが「古い駅が大好きで、いつも付き合わされるんですよ」と笑う。こういう出会いはうれしい。「熱中症にお気をつけて」と声をかけて列車に乗り込んだ。


▼播磨下里13時22分→13時31分北条町(写真17、18)

〈17〉北条町の駅ビル
〈17〉北条町の駅ビル
〈18〉北条町駅の構内。北条鉄道で乗車券の発券を行う唯一の駅。各種グッズも発売している
〈18〉北条町駅の構内。北条鉄道で乗車券の発券を行う唯一の駅。各種グッズも発売している

初めて北条鉄道に乗り、終点で下車した人が一様に驚くのは北条町駅近辺の町の大きさ。加西市の中心地なので当然なのだが、粟生から、のどかな田園風景の車窓を眺めながらトコトコ進んできたローカル線の終点でパッと街が広がる様子は壮観でもある。周辺で食事、買い物、宿泊には全く困らない。

大正期に開業した北条線は、北条から姫路に向かう予定だったという。確かに地図を見ると播但線の各駅は近い。ただ戦時中の国有化から戦後の流れで話はなくなり、3セク化を経て現在に至る。実は以前から、とても気になっていたことがあったので北条鉄道に取材の電話をした(写真19)。北条町駅は「ほうじょうまち」。しかし町の名前は「ほうじょうちょう」なのだ。あくまで私見だが、自治体や駅名の「町」は関東では「まち」、関西では「ちょう」と読むことが多い。なにゆえ駅名だけが「まち」なのか? 

答えは明確で「うーん、分かりませんねぇ。国鉄時代から、その読み方だったので」。こんなナゾも鉄道ロマンのひとつである。【高木茂久】

〈19〉北条町駅の駅名標
〈19〉北条町駅の駅名標

(※1)1日フリーきっぷを発券できるのは窓口のある北条町駅だけだが、ワンマン運転の車内で運転士に、その旨を告げると「引換券」を840円で購入でき、北条町駅で硬券のフリーきっぷと交換できる。ただ北条町まで行かなくても引換券を運転士に提示すれば全駅で乗降できる。

(※2、3)北条鉄道の各駅で行われているイベントについては不定期のものもあるので各自お調べください。