群馬県上野村を流れる神流川の冬季キャッチアンドリリース区間で、ハコスチ釣りが今年も解禁となった。ルアー、フライ、テンカラで来年2月まで狙える。同県水産試験場が独自に開発した遊漁用ニジマスで、強烈なファイトが魅力だ。川釣りもルアーも初挑戦、釣りを始めて1年足らずの同県出身の囲碁の女流棋士、「ベッキー」こと木部夏生(きべ・なつき)三段(30)が地元上野村漁協の清水郁喜(ふみき)さん(26)にルアー釣りを教えてもらいながら、見事49センチのハコスチをヒットさせた。
★まだ戦える
ベッキーがほほ笑んだ。3グラム、グローカラーの夜光系スプーンにハコスチがヒットした。ロッドを寝かせて、水面でジャンプされないように慎重にやりとりする。岸まで引き寄せてタモ取りされた。体側に鮮やかな赤い線がクッキリと入った49センチのハコスチだった。「川での釣りもルアーも初めてだったのに、釣れてうれしいです」。
午後3時40分ごろ、冷たい風が吹き始めて少し空が暗くなり、川面がさざ波だった時だった。夕暮れ時の活性が上がり始めるチャンスタイムにさしかかった直後だった。
午前中に3回バラした。シングルフックが魚体に掛かっても外れた。カジキやシイラのジャンプと言っては大げさかもしれないが、シーバスのエラ洗いのような派手な暴れっぷりに圧倒された。水は澄んでいるので、川の中で泳ぐ様子が手に取るように分かる。
普段の囲碁イベントではファンへの先生役として指導碁を行うが、この日ばかりは教わる立場。清水先生に弟子入りして、キャストや狙う場所、誘い方など「イロハ」から手ほどきしてもらった。3回バラしてめげるどころか、そこは勝負の世界に生きるプロ棋士。「7番勝負なら3回負けてもまだ戦えますから」。村内にある浜平温泉「しおじの湯」での昼食休憩で、地元の十石みそを使ったもつ煮定食でスタミナチャージをした後の再チャレンジで食わせた。
午前中のレッスンで、対岸ギリギリの岩場などにキャストできるまで上達した。「ミノーなら巻かずに流れに任せて漂わせます」「流れに直角にゆっくり巻いて、ハコスチの目の前を何度も通してください」「この場所なら少し深いところにいるので、スプーンを少し落として止めて、ゆっくり巻き上げてください」といった清水先生のアドバイスを聞きながら、何度も誘ったのが実を結んだ。
「群馬県内にこんな空気がきれいな癒やしの川があるなんて、知りませんでした。また楽しみたいです」。ベッキーはすっかりとりこになった様子だった。【赤塚辰浩】
■ハコスチとは
★ニジマスを遊漁用に改良
神流川のハコスチは今年で導入して10年。3~9月の渓流、6~9月のアユとともに、10~2月の看板釣り物として全国からファンがやってくる。
ハコスチは、群馬県水産試験場がニジマスを遊漁用に改良した。スチールヘッド系のオスと地元箱島湧水の水で育った箱島系の容姿の美しいメスを交配させた。引きの強さが特徴で、県内の管理釣り場などで人気となっている。
清水さんはルアーの基本タックルとして、ロッド5~6フィート(約1・5~1・8メートル)、スピニングリール2000~2500番、道糸はPE0・4~0・8号かナイロン4ポンド、リーダーはナイロン4~6ポンドで150センチ程度。ルアーはスプーン2~5グラム、フローティングかサスペンドミノーなら長さ4~7センチを推奨している。天気や水の色に応じ、派手なタイプからナチュラル系までカラーは使い分ける。
■ハコスチ釣りルール
◆魚 キャッチアンドリリースのため、殺さない。持ち込まない、持ち出さない。クーラーやビクの持ち込みも禁止。写真撮影時は、魚に負担がかからないように陸に上げない。魚体に触れる時は川の水で十分手を冷やし、速やかに。エラに手を入れない。
◆フック 返しをつぶしたバーブレスの状態で。ルアーはシングルフック。
◆その他 大声で騒いだり、ドタバタと走り回ったり、水面に影を入れると魚が警戒してしまうのでNG。
■フライでも続々 ヤマメやイワナも
午前中はフライで狙っていた人たちのロッドが次々と絞り込まれていた。水生昆虫に似せた洋風の毛針を川に流して狙う。
山本功二さん(65)は京都市から初めてやってきたという。ニンフの10番で表層より70センチほど下を流し、40センチ級をヒットさせた。フライ歴約30年。「ニジマスより引きが強いと聞いて、楽しみにしてきました。うわさ通りでした」と、すっかり堪能した様子だった。
田口基(もとい)さん(83=群馬県富岡市)はフェザントテール18番を表層から瀬尻に引いて掛けた。かつては渓流でヤマメ、イワナを狙っていた。「ここは足場がいいから釣りやすい」と笑っていた。
ニンフ16番でハコスチのジャンプをかわしながら取り込んだのは、稲村喜久さん(60=埼玉県神川町)。フライは45年以上楽しみ、渓流が禁漁となるこの時季は、30年近く神流川に通う。「ヤマメを狙うための応用練習。釣り方を考えるだけではなく、掛かった後のやりとりも面白い。ノウハウも道具も反映される貴重な釣りの場所」と話していた。
■黒澤村長と指導対局「筋がいい」
ベッキーが群馬県出身で、釣りもやるからと上野村の関係者が耳にして実現した今回の釣行。同県のよしみという「地縁」が、思わぬ「碁縁」へと発展した。黒澤八郎村長(63)との指導対局が実現した。
「全くの初心者です」とベッキーに弟子入り。「黒、白の交互に打つ」「オセロのようにマスの中に置くのではなく、線の交点の上に石は置く」「好きな場所に打っていい」という簡単なルールで手ほどきすると、入門編の7路盤(プロの対局は19路盤)で実戦が始まった。
囲碁はお互いの陣地を築きながら、取り合うゲーム。囲めば石も取れる。黒澤村長、着実に地盤ならぬ陣地を固める。時には要点を自ら見つけて黒石を置いたり、めどを付けたら方向転換して別の場所に陣地を築いたりした。ベッキーも「筋がいいです」とたじたじだった。
対局を終えた黒澤村長、「役場の職員が休憩時間に打っているのを見て、やってみたいと思っていました。奥が深いですね。これからも続けますよ」と笑顔を見せた。これが「碁縁」になって、村での囲碁イベント開催の可能性も見えてきた。
■楽しみいっぱい「浜平温泉」「天空回廊」
釣りは総合レジャー。みっちり釣りをするのもいいが、おいしいものを食べたり、温泉につかるとか、ほかの施設を回るのも楽しい。
上野村の場合、日帰り温泉施設「浜平温泉 しおじの湯」など、温泉が充実している。しおじの湯では食事もできる。このほか、上野村ふれあい館、道の駅などでも食事ができる。
また、標高700メートルの山の上、深い谷で隔てられている「まほーばの森」と「川和自然公園」を「上野スカイブリッジ」で結んだエリアが「天空回廊」だ。長さ225メートル、高さ90メートルのつり橋であるスカイブリッジからは眼下に森と渓谷が織りなす雄大な大自然が満喫できる。
観光情報サイト=https://uenomura-kankonavi.jp/
◆木部夏生(きべ・なつき)
1995年(平7)8月11日生まれ、群馬県太田市出身。藤澤一就八段門下。三段。漫画「ヒカルの碁」の影響で小1の頃、囲碁を始める。10歳で1型糖尿病を発症したが、「言い訳にしたくない」と奮起して12年プロ(初段)に。今期の第37期女流名人戦の挑戦者決定リーグ戦に初めて参加する。愛称「ベッキー」。釣りは約1年前に沖縄で観光船に乗って始め、今は関東近辺の防波堤などで楽しむ。
◆問い合わせ 上野村漁協【電話】0274・59・3155。
◆釣り時間 10月は午前9時から午後5時(11月午後4時30分、12~2月午後4時)。
◆料金 男性3000円(年券所持者2000円)、女性2000円(同1500円)、中学生300円、小学生無料。











