医師で作家の鎌田實さん(67)が、日常生活のちょっとした工夫で健康になり、10歳若返るヒントを教えてくれます。

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 腎臓がんになったS君という青年がいた。彼のがんはたちが悪く、余命は早ければ半年、2年後の生存率は0%と言われた。深刻な状況である。

 だが、なぜか彼は必ずがんを克服するんだと思い、入院して手術や抗がん剤を受けた。厳しい状況にもかかわらず、よくなる可能性だってあるはずだと思える。そんな楽観力を持つ人は、不思議な力を持っている。S君はまさにそんな人だ。

 悪い友だちがお見舞いに来て、風俗店へ誘われた。楽観的な彼は病院を抜け出し、悪友について行った。そこで相手の女性が、「がんなんでしょう?」と声をかけてきた。S君は、抗がん剤の副作用で髪の毛が全部抜けていたからだ。

 女性は自分自身も子宮がんの手術をして7年たつと言い、「今は元気になった。あなたもきっと元気になる」と励ましてくれた。

 彼は、病気を治してマラソンに出るという夢を持っていた。そして、本当にホノルルマラソンに出て完走した。

 悪いデータを見せられても、悲観的にならないことが大事だ。彼は診断から5年たち、主治医から完治と言われた。

 カナダのコンコルディア大学の研究では、楽観的な人はそうでない人に比べて、ストレスホルモンのコルチゾールの値が低く、ストレスを感じにくいことがわかっている。

 また、ケンタッキー大学の研究では、楽観的な人はそうでない人よりも免疫力が高く、より健康であるという。

 悲観的になると選択肢が狭まるが、楽観的になると可能性が広がる。ストレス社会を生き抜くために、楽観力を忘れないでいよう。

 ◆鎌田實(かまた・みのる)1948年(昭23)6月28日、東京生まれ。東京医科歯科大医学部卒業後、長野県茅野市にある諏訪中央病院の医師になる(現在は名誉院長)。チェルノブイリ原発事故の患者支援、イラク難民支援を続け、東日本大震災後の被災地支援にも力を入れている。著書「がんばらない」など多数。