国立病院機構「久里浜医療センター」の樋口進院長は、依存症治療の第一人者だ。

 ◆質問 「ネット依存」は脳に影響を及ぼすのか。

 樋口院長 ある程度、理性的にコントロールできる年齢になっても、ゲームをずっとやり続けたり、ギャンブルをやり続けたり、酒を飲み続けたりすると、脳の理性をつかさどる前頭前野の機能が落ちてくる。そうした結果、本当なら“ちょっと待てよ、ここは抑えなければ”ということが依存行動のためにコントロールできなくなってくるのです。このことは脳機能の研究で明らかになっています。

 ◆質問 ますます脳が依存する?

 樋口院長 仮に本人が気づいて、ゲームをやめたり、ギャンブルをしなくなったら、ゆっくりと戻る(回復する)はずです。しかし、それがどのくらいでそうなるかといった研究はありません。衝動のコントロールが悪い人は「依存」にいきやすいことは昔から言われています。逆に「依存」になってしまうと、もともとの理性的な機能も落ちてくるので、結果的に衝動のコントロールも落ちてくるというわけです。

 ◆質問 “脳への影響”2つめは?

 樋口院長 cue(キュー)刺激と呼ばれる“依存対象を連想させる刺激”に対する過剰な脳の反応です。これはたとえば、ギャンブルでもパチンコでも依存している人たちが、それらを連想させるものに遭遇すると、脳の中にドーパミンという物質が分泌されます。アルコール依存の人にウイスキーのボトルを見せると飲みたくなってしまうのはそのためです。こうした反応のパターンは、依存がある人とない人では全然違います。

 ◆質問 何を意味するのか。

 樋口院長 こうした反応はアルコール、ギャンブル、ゲーム、いずれにもみられるが、治療において“刺激から遠ざけること”を意味しています。もともと反応しやすいのだから、できるだけ反応を起こさせないようにする。立ち直っていくときにとても重要なことを示しています。