心臓外科医として、手術が成功し「患者さんはもう問題はない」と思っていた時に、その患者さんが亡くなると、患者さん家族と同様に私たちもとてもつらい。だから、私自身の記憶の中に強くインプットされています。

 20年ほど前、心筋梗塞で緊急搬送され、緊急手術となった70代のC男さん。私はそのバイパス手術を問題なく終え、C男さんは集中治療室から早々に一般病棟に-。食事も、リハビリもスムーズに進み、みんな安心した1週間後、C男さんは発熱を起こし、肺炎であることがわかったのです。

 呼吸器内科と協力し、抗生物質と免疫を高める免疫グロブリン製剤を使い対応しました。誤嚥(ごえん)性肺炎などではなく、これは自分自身が体に持っていた菌によって肺炎を発症したのです。この場合、抗生物質と免疫グロブリン製剤でしか対応ができないのです。患者さんは手術をすることで体力が低下し、そのときに持っていた細菌が増えたと考えられます。

 できることはすべて行ったのですが、C男さんは残念ながら亡くなられました。

 合併症にならないようにするには、重要なことが2点。それは「早期離床」と「口腔(こうくう)ケア」です。早期離床はベッドから少しでも早く起きて、リハビリを行いましょう、ということです。口腔ケアは、虫歯や口の中の出血の有無をチェックします。歯や歯茎などをしっかり治療した後で、手術をします。治療がなされないと手術を延ばす時代です。それは肺炎を合併しないためなのです。(おわり)

(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)