<胸部大動脈瘤(3)>

 胸部の大動脈に瘤(こぶ)ができ、それが破裂すると突然死に至ってしまうのが、胸部大動脈瘤(りゅう)。運良く胸・腹部CT検査で胸部大動脈瘤が発見され、その瘤が治療適応対象の大きさであれば、治療が行われます。破裂予防のためです。胸部大動脈瘤が治療対象の大きさでなければ、がんの対応などでもよくある経過観察です。

 その経過観察期を過ぎると、治療を行うことになります。今日行われている治療は手術と、血管内治療(ステントグラフト内挿術)です。その中で、胸部大動脈瘤での基本治療は手術ですが、ステントグラフトによる治療も増加傾向にあります。

 手術は人工血管置換術といわれ、胸部大動脈瘤を切除したあと、その部分を人工血管に置き換えるものです。この手術を成功に導いているのは、心臓外科医の腕はもちろんですが、その他に人工血管の進歩があります。

 今日の人工血管は、合成繊維のポリエステル(ダクロン)でできています。化学繊維の布で編んだもので、外側はタンパク質でコーティングされています。ある種、化学繊維の布は藤棚の棚。そこに血栓がついて、さまざまな細胞が棚の外側、タンパク質でコーティングされた内側に組織をつくるのです。タンパク質のコーティングは2週間程度で溶けます。しかし、その時に、それに代わる組織が内側にでき上がっており、元々の血管のように働くのです。

 手術では脳障害を防ぐために、超低体温の手術が行われています。体温をぐっと下げて、脳に血液を循環させる手術方法です。手術時間は約6時間。ただし、どこの心臓血管外科でも対応できる手術ではなく、医療施設が限られています。胸部大動脈瘤を得意としている医療施設を選択することが、重要になります。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)